15 誰かのために一歩踏み出してみたけど
※グロテスクな表現あり、苦手な方はご注意ください
『絶対防御』
『重複魔法結界』
『魔法感知』
ライムは魔力を全身に巡らせ、早口で詠唱を唱えていく。
準備は万端に。
あの森ではいったい何が起こっているか検討もつかないから、できうる限りの魔法を施す。
「最後に……『存在稀釈』」
自身の存在を認知されないように、存在稀釈の魔法も忘れずにかける。
あとは瞬間移動で森へ移動するだけだが、この魔法は一度行ったところへしか移動できない。
なので移動する場所は、グループ試験開始の際に着いた場所ーーつまり森の中にしか行けないのだ。
ーーできれば森の外から介入したかったけど……。
いきなり魔法の影響化に突入するのは気がひけるけど、ちゃんと防御魔法もかけたし、影響は受けないはずよね。
「すぅーーはぁーー」
大きく深呼吸しながらライムは気持ちを落ち着かせる。
自分から何かしようと思うのは、誰かの為に動こうと思うのは、いつぶりだろう?
ずっと自分のために生きていた。
それが幸せだったし、その幸せが正解だと思った。
でも今は。
それじゃダメだと声を上げる自分がいる。
ーーおそらくシオンは森へ向かっている。
話してくれた幼なじみを助けるために。
責任感が強くて、そして私たちが疑われた時は一番に怒ってくれた友達想いのシオン。
そんなあなたが、帰ってこない幼馴染を待っているだけなんてしないでしょう?
さっき私に幼馴染のことを話してくれたのは、自分の気持ちの整理をしたかったんだろうなとライムは思った。
「お父さん、お母さん……それとハクジ。少しだけ帰るの遅くなります」
聞こえるか聞こえないかのような声で、心配しているであろう両親とハクジに僅かばかりの気持ちを送った。
『瞬間移動』
そして行先を頭に思い浮かべたライムは、パッとその場から消えたのだった。
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森の中はやけに静かだった。
グループ試験の時のように豪雨かとも思われたが、そこは濃い霧に包まれていた。
ただの霧ではない。
凍てつくような冷たさの、漆黒の霧。
周りの木々までも鎮まり返り、葉や植物はひとひらも動いていない。
時が止まったかのような沈黙が訪れていた。
ライムはゴクリと唾を飲む。
誰が、いったい何のために?
試験の中止が目的だったのか、それとも受験者の中に恨みを買った者がいたのか、それとも学園を狙ったものなのか。
だだ、膨大な魔力と魔法力で黒い雨が降ったことは確かだった。
雨には魔方陣を打ち消す効果があり、森全体を覆う広範囲な結界も張ってある。
大抵は一筋縄ではいかないだろう。
ライムは森を包んでいる結界を散らせて、すぐに解決しようと思った。
これくらいなら、魔力を広範囲に渡らせてぱぁっと晴れるイメージを施せば一瞬で終わりそうだ。
でもね……。
やっぱりちょこっと怖いよね……。
早く終わらせたいわ……。
そんなことを思いながら、ざわざわとした雰囲気を感じて思わず後退りをする。
グニャリ。
一歩引いた足に柔らかいものを踏んだような奇妙な感覚がした。
え、なんだろう、この感触……。
足元を見たが暗くてよく見えない。
指先を挙げたライムは、すぐに光魔法を発動する。
「……『魔法微光』」
「……………っ!!!」
ーーこれは?!
「…………あぁ!!」
魔法の光が照らしたもの。
手?足?胴体?顔……?
……え、これ、人の形をしている……。
ーーそれは、横たわった人間だった。
「ひぃ!ひ、人!?まさかしんで……?」
すぐに目を背けたが、今見た光景が頭の中でフラッシュバックする。
ライムは必死で口を手で押さえて、自分の内側から込み上げてくる液体を抑えた。
うっ……。
しんでるんじゃない。
これはーー
……溶けている。