14 ぐーたらは正義だと思ってた
「それじゃあ、またね。シオンさんもライムさんもお気をつけて」
商会から手配された馬車に乗り込むジュエルは、ライムとシオンに静かに別れの挨拶をした。
ジュエルの両親は大きな商会に勤めているらしく、心配した両親がすぐに迎えを呼んだらしい。
なので、ジュエルとは一旦ここでお別れ。
騒ぎがあったけれど試験自体は延期になるだろうし、また会う機会あるのかな。
ライムは小さくジュエルに手を振った。
「ジュエル、今日はいろいろと……ありがとう。騒ぎが落ち着くといいのだけれど」
「ジュエルも気をつけて帰れよ」
「うん。またね」
ジュエルに挨拶を済ませて私たちは馬車を見送った。
街道には魔導石が埋め込まれている街頭が淡く光り、夜道を照らしている。
夜は魔物も活性化するため、安全と言われている敷地内でも街の人たちは皆夜には活動を控えているそうだ。
辺りは颯爽として、ただ2人の影だけが街道に並んでいた。
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試験会場から少し歩いて馬車乗り場のところまでライムとシオンは来ていたが、シオンは馬車で帰るわけではないみたい。
「シオンは今日はどうやって帰るの?」
ジュエルの馬車を見送ってから、ライムは何気なくシオンに聞いた。
「俺は馬車使える金もねぇし、寮住みだからな……当たり前だが歩きだ。ライムはどうするんだ?」
「私は……、瞬間移動ですぐ帰れるわ」
ーーシオンに話すか迷った。
でもきっと彼なら私が嘘ついたらわかっちゃうだろうし、言いふらしたりはしない人だと思ってる。
だから、ライムは正直に答えた。
「ライムは本当にすごいな。魔法陣を直したり、瞬間移動できたり」
「そんなことないわ。私はただ……」
ーー使える魔法を使っただけ。
シオンみたいに将来に向かって努力しているわけでもないし、なんなら逃げ回ってるだけのへなちょこだ。
そしてぐーたらしたいし、それが悪いことでもないと思ってる。
でもこうやって頑張っている人を見ると少しだけ惨めな気持ちになった。おかしいな。ぐーたらは幸せなことなのに。
「いつでも、すぐ家に戻れるのか?」
「ええ。行ったことのある場所だったらどこでも」
「そうか。……あのな、ライムに一つ願いたいことがある」
「ん?」
「俺が帰るまで一緒に付き合ってくれるか?いや、寮まで歩くわけじゃないが少しの距離、な」
「えっ、あ、うん。わかったわ」
胸がほんのり熱くなったライムは、シオンのことを見る。
彼は寂しそうな表情をしていた。
夜道を1人で帰るからではないだろう。
シオンは何か話したいことがあるようだった。
「個人的なことで申し訳ないんだがな。グループ試験を受けただろ?実はさ、俺の幼なじみも受験しててな……」
寮へ向かいながら、シオンはぽつぽつと話し始めた。
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シオンは自衛団に所属するため、それ専門の寮に入り日々特訓しているらしい。
束縛魔法が使えるということでカルデア自衛団候補となり、実力も認められたところで学園への受験資格を得たそうだ。
能力はあるが若さゆえにあまり稼ぎがない人たちが寮には住んでいる。
そんな救済措置である寮には人数は少ないが、友達がいたそうだ。
その1人、シオンの幼なじみも試験を受けていた。
「まだ、戻ってきていないんだ」
シオンが苦しそうな表情で言葉を吐き出した。
「一緒に頑張るぞって。揃って合格して、学園に入学しようなって、言ってたんだ」
「そう、だったんだ……」
「あいつは今どこで何しているんだろうな。試験も終了だってのに。ああ、戻ってこないんだ……」
「…………」
シオンの顔は……見ないでおこう。
ライムは薄暗い前だけ見つめて、独り言のように呟くシオンの話を聞いていた。
「悪いな、お前にこんな話してさ。聞いてくれて、少し、心の整理ができそうだ」
「ううん、これくらい。シオンの力になれるなら」
「はは、有難いよ。もうちょっと楽しい話にすればよかったな」
シオンはもともとこんな話をするつもりはなかったらしい。
申し訳なさそうに、シオンはこちらを見て苦笑した。
「この辺で大丈夫だ。付き合ってもらってありがとな。ライムはまぁ一瞬で帰れるんだろうが、親にちゃんと今日の話するんだぞ。心配しているだろうから……それとーー」
「ふふ、大丈夫よシオン。気遣ってくれてありがとう」
ライムは静かに笑って、シオンと別れた。
ーーシオンはなんで私にこの話をしたのかな?
先ほどの話が妙に引っ掛かった。ざわざわと胸騒ぎがする。
そうね……。
頭ではわかりそうなのに何故か考えないようにしている自分がいる。
今も騎士団長たちが事件の原因究明にあたっているが、黒い結界は未だ森を包んだままらしい。
本当に無事だといいけれど……とライムは自宅まで瞬間移動の魔法を唱えようとした。
「…………」
『瞬間移動……』
「いや……やっぱり……」
ライムは思い留まった。
家に帰ろうと思った。
けど、シオンの話を聞いて助かっていない人がいるんだと実感した。
心配して苦しい思いをしている人がいるんだとわかった。
事件は、まだ解決していない。
解決するかもわからない。
「そう、ね。自分でもどうかしてる」
戦闘経験のない私がまさか敵地に赴くなんて、シオンはゆめゆめ思わないだろうな、とライムは思った。




