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134 扉




 ゆっくりと目を開けて辺りを見渡すと、壁一面びっしりと魔法文字が書いてあった。


 魔法文字とは魔法陣に必ず使用される文字のことで、あらゆる事象の手順と効果を表す。

 強大な魔法ほど膨大な文字列になるのだが、ここまで隅から隅まで書かれているのは初めて見た。


『なんて細かく書かれているの……』


『ライム……。それよりみんなと別々になったことを気にしようよ。僕は確かに君と志しは同じだけれど……役に立つかどうか怪しい……それに……ふぁあ、眠たいや』


『なんだぁ!少年!!シャッキっとしろや』


 壁面に驚きを見せるライムをよそに眠たそうにジュエルは大きな欠伸をしている。

 そんな彼をクベラは良く思っていないようだ。むすっとした顔をしながら、私たちより先頭に出る。


『クベラ……さん。ジュエルは私の絶望の呪いを3分の1肩代わりしてくれてるのよ。常に眠くなってしまうの。詳しくは話せないんだけれど、到底私には背負えないものよ』


 眠ると死を感じる絶望が付与されている私にとって、眠るということは何より恐ろしい。だから、彼が背負ってくれているだけでどれだけ救われているかーー。


 クベラをせっせと追いかけながら、ライムは彼の背中に向かって話しかけた。


「絶望、か。お嬢ちゃんは随分大層なものを背負っているのな。ここアスタリアにも『絶望』が充満しているぜ。どっかの神様がなすりつけちまった影響でな」


『どういうこと?』


「この魔法文字列は絶望を否定するものなんだ。絶望、というか負の感情だな。中心部に向かって一直線に書かれている。俺たちはそれを止めに行くんだ」


 壁をよく見ると確かに、『逃避』『怠惰』『絶望』といった言葉が多く使われているようだ。


『建物を壊すだけではダメなの?』


 私なら『空間破壊魔法』でその空間ごと切り取ることもできると思う。

 しかし、その意気込みはあっさりと断られた。


「それはいくらお嬢ちゃんでも無理だな。何故なら、ここは元神様が作った城だからだ。世界のページに書き加えられているものは、どんな事象であれ、壊すことはできないんだ。第一壊せたとしても世界の崩壊は止められんだろ?」


『な、なんだか……壮大な話だね……。本当に黒き雨を止める術なんてあるのかな……』


 ジュエルは不安そうな顔で、壁に手を当てて解析しようとしているライムを見つめる。


『それは……』


「なんだぁ?!さっきから辛気臭せぇなぁ!そんなんやるしかねぇだろ……ってあ"ぁ?!」


 クベラが振り返ってジュエルを睨みつけた瞬間、ライムが触れた壁の文字がいきなり煌々と照り始めた。


『わっ……!!何これっ?!』


「お嬢ちゃんなにしやがった?!」


 クベラが急いで駆けてきてライムと壁の間に割って入ろうとする。


『ちがっ、、私何もしてない!ただ触れて解析しようとしただけでーー』


 眩しさから目を覆い、慌てて文字から手を離す。どうやら光っているのは一部の文字だけのようだ。


 クベラは心底驚いた様子で、


「呼応してやがる……。おいお嬢ちゃん、その文字を辿っていくぞーーたぶんこの先に扉がある」


 と長い廊下の先を見つめた。


『扉ーー?』


 顔の引き攣ったジュエルが心配そうに正面を指差した。


『扉ってあれのこと?』


 先程までにはなかった。


 突然その大きな扉は現れたのだ。


 扉を形成している魔法文字はひしめき合い、ぎゅうぎゅうと押されて流動する様に蠢いている。

 それはまるで生き物のように。


『今までなかったのにーー』


「まぁいい。この扉の先だ。いや、待て……この種の扉は俺でも見つけたことはねぇぞ」


 クベラは目を開いて、初めて見るものかのよつにじっくりと観察する。

 扉の魔法文字は全て同じ文字で構成されていた。



 その文字はーー


 ーー『恐怖』。









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