131 侵入
『どうしても、か?』
『うん……ごめんね』
シオンは私のことを1番に考えてくれる。
それがとても嬉しいし、ありがたい。
だからこそ私が、この絶望を取り除かなきゃいけないと強く思う。
『ミザリに行って全部を終わらせてくるわ。私なら……できる。神さまにだってなってやる』
ーー全ての元凶を、断ち切る。
黒い雨をもたらし、子どもたちの魔力を搾取しなければならなくなった原因であるラクリマと以前の神さまに……。
『アレス先生から聞いたんだけどね、今の世界は魔力が足りなくって世界の外側が崩壊しつつあるんだって。だから、黒い雨が降る。そしてその魔力不足を補うために子どもたちから搾取する……。やっぱりそれじゃいけないと思うの』
『ああ、本当に外の様子は酷い有様だったよ……』
シオンはうなだれながら、依然に降り頻る雨の音を聞いた。ライムや国王の声から情報を得ていたからかそれほどの驚きは感じられなかったが、美形をぐっと歪ませている。
『だが、どうする?ライムが言って世界の崩壊が終わるわけでもないし、ラクリマに狙われているお前が無事に帰ってこれるとは思わえねぇー……』
そう言ったところで、シオンはさらに眉間に皺を寄せた。私が次に話す言葉を読んだのだろう。
『まさかーー!!』
シオンはガタッと立ち上がり、血相を変えてライムを凝視した。
『さっきの話は本当か?!』
『うん。こうするしかないと思うの』
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黒い雨が豪雨となって、地面に叩きつけるように抉っていく。
そんな中私たちはミザリの中央魔法化学研究所の建物の前に立っていた。
目の前に立ち憚るのは巨大な白い塔。
見上げても目を凝らしても、遥か上空まで聳え立つ建物はどこか異形のようだった。
『ピアノ……無理しないでーー。苦しかったら補助魔法でもなんでもかけるし、なんなら安全な場所に……』
「いいの、ライム。私が来たいって言ったんだから」
来ているのは、私とピアノ、シオン、ジュエル、そして、レイラちゃんだ。国王様は王宮から離れるわけにいかず、各所の対応に追われている。
ピアノとの触れ合いの時間はほんの僅かなものだったが、2人ともずいぶんと落ち着いたようだ。
黒い雨は溶解作用があるため、『イメージ化魔法』で傘を作ってある。
見た目は傘だが、ドーム状に魔力が広がり雨粒を弾くようになっているのだ。
「ライムは色んなことができるようになったんだね」
ピアノがぼそっと呟く。
『そうなの!おねぇちゃんすごいんだよ!』
何故かレイラちゃんがえっへんと手を腰に当てて、嬉しそうにしている。
『レイラちゃんも十分すごいわ』
ポンっと頭に手を置いて、なでなでするピアノ。レイラちゃんはにっこり笑った。
『リエード先生は国王の命に従って、黒き雨による被害者の対応。アレス先生はライムに化学者が近づかないように牽制してくださっている。だから、安心していい。あの2人は教員の中でも群を抜いているし、他の兵もかき集めているところだそうだ』
『……ここにいるのは僕らだけってことだね』
ジュエルがほっとしながら、シオンの説明を受け入れる。
『あとは入り方なんだが、塔には強力な魔法陣が組んであるんだ。関係者しか入れないようになってる』
『あ、そのことなんだけど……』
シオンが少し困った様子だったので、手を小さく上げてみんなに伝える。
『アレス先生がね……この塔へ入れるように魔法陣を解除してくれたみたいなの』
『本当か?!』
シオンは驚いたように目を見開く。
でも、1番に驚いていたのはレイラちゃんだった。
『え……あ、う………』
『レイラちゃん?どうしたのーー?』
レイラちゃん含めこの場にいる全員に『完全魔法防御』『完全物理防御』の魔法を施し、さらに精神干渉系の魔法にも対抗できるようにしているから大抵の攻撃は受けないはず。
外傷がないことから、レイラちゃんの中にある『叡智魔法』からもしかしたら何か反応があったのかもしれない。
ーーどうやら憶測は当たっていたようだ。
レイラちゃんは私の言葉を聞いてから、急いで塔の裏口にある四角い魔法陣に手を当てた。
『おめめさんがね!おしえてくれたの!』と、レイラちゃんは慌ててこちらを手招きしている。
裏口には目立たない場所に魔法陣が掘られていて、その中央にパネルのような板が置いてある。
そこには魔法陣と青い『マキア』が浮いている。
『おねぇちゃん!!これ、見て!』
『え、なに……あ……』
瞬時に理解した。
壁に掘られている魔法陣を解読するまで時間はかからない。
レイラちゃんも『叡智魔法』から知識を得たのだ。
『おねぇちゃんどうしよう……?ーーここをとおるには、じゅみょうがひつようなんだって』




