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13 やっと帰れますー!




「私はーー、アズベルト・アズライムの養子であり、王の推薦により特別試験受験者として受験しています、ライムといいます」


 何も間違ったことは言っていないし、学園にはお父さんが同じように伝えていたはずだった。


 王の推薦……というのは入学試験に合格した際、王国からいくらかの資金援助がくるというものだ。

 身元不明の私がこうやって育ててもらい、入学試験を受けられるのもお父さんが話を通したおかげなのだ。


 アレスも手元の紙をペラペラとめくりながら、フムフム……と納得している。

 受験者の名簿を確認したようだ。


 ーーほらね。

 何にも怖いことなんてないのよ。

 でも、彼はそれを許してはくれなかった。


「では、貴方が隠していることはなんでしょう? こんなにも大混乱の中、貴方達だけが帰還できているのは何か理由があるのでは?」

「隠していること……ですか? 私はこの状況について何も知りませんし、2人も同じです」

「フヒヒ! そうでしょうな」


 アレスは高笑いをして、当たり前だというふうに返答した。


 ライムは、無罪である自分たちを追求してくるアレスの目的がわからなかった。

 ーーなんでそんなに私たちを追求してくるのだろう?

 確かに1組だけ戻ってきているのはおかしいの。

 でもこんなに詰められるなんて……。


 だか次の言葉でライムは納得せざるを得なかった。


「いやーねぇ、私実は王女サマの魔法陣を描いた者なんですよ。これだけ言えばわかりますね?」


 ーーうわ。

 ということは……。

 緊張によるものか額に汗が滲む。


 ライムは膝の上に置いてある手を握り締めた。

 どうしよう…………どうしよう。

 なんて答えよう?


 暫く黙っていると、心配したシオンがライムより先に返答してくれた。


「おま、……あなたが描いたんですか?それと、どう関係あるのですか?あなたは私たちをどうするつもりでしょうか」


 シオンは怒りのあまり、口調がよろしくなくなりそうだったが何とか持ち堪えたようだ。

 ライムのことを思ってか、早口になりながらも話を戻そうとしてくれていた。


「ヒヒヒッ、ええそうです。王宮に、私ほどの魔術師はいませんからねぇ。王女サマはいささか元気が良すぎるもので……。自由外出許可を出している代わりに追跡魔法陣を込めていたのですが、試験の途中から反応がなく……。いやぁ!焦りましたよ!」


 ーーライムはやっと事情を察した。

 いや、この人の説明不足なのがいけないわ。


 つまり、アレスは王直属の特別対策長でピアノ王女専属の魔術師。

 ピアノが好奇心によってどこかに勝手に逃げたりしないように、ある程度の自由と引き換えに追跡魔法陣を込めていた、ということだろう。


 ピアノのあの元気さならやり兼ねないなぁ、とライムは思った。

 王女様に対して失礼なことしてなかったよね?

と今更ながら焦るが、もう後の祭りである。


 知らなかったのでしょうがないと言って、許してもらえるだろうか?


「…………」

「おやぁ、心当たりがありそうですね。そうなんです。一度消えかかった魔法陣が何者かによって、修復されているんです。この!私が描いた魔法陣をですよ!」

「…………」


 ライムたちは沈黙した。

 どう答えるのが正解か、アレスの目的がわからなければもう何も答えられなかった。


 まさか、ライムが魔法陣を修復したとは言えない。

 シオンもジュエルも優しいなぁ、とライムはこっそり感謝した。

 もう伝えることは伝えたのだ。


「否定も肯定もしないということは……。そうですか。それではあなたたちに言いたいことがあるのです」


 ついに黙ってしまったシオンとジュエル、そしてライムはゴクリと唾を飲む。


「ピアノお嬢様を助けて頂いて、誠にありがとうございました」


 アレスは立ち上がり、ペコリと綺麗な深いお辞儀をした。


「と、いうと……?」


 ジュエルが困惑しながら、アレスに確認する。


「フフ、貴方方にお話を伺ったのは私の個人的な要件なのです。その要件は、追跡魔法陣を修復し、ピアノお嬢様を助けて下さったのはどなただったのか確認すること。直接的にお聞きしても、確実性がとれませんから」


「だったら、ピアノさ……いえ、王女様に直接聞けば良かったのでは?」


「そうなのですが……。ピアノお嬢様は王のもとに連れていかれてしまいました。あれほど、心配した王を見たのは初めてですね……。まぁ、すぐには確認できそうになかったのですよ」


 今の話からいくと、アレスは始め私たちのことを信用なんかするわけもなく、疑いを持っていた。


 王女様を助けたのか?なんて聞いたら、その褒美欲しさにもしくは罪から逃れるために都合の良い理由を立てて、YESと答えるだろう、と。


 だから、あんなに鋭い質問だったのか……。


 ライムは疑いが晴れてスッキリするかとも思ったが、まだモヤモヤした気持ちのままだった。

 きっとシオンやジュエルもだろう。


「しかし、まだ黒い雨の原因もわからないまま……困りましたね。試験は言わずもがな、中止でしょう。騎士団長には、貴方たちからおおよその話は聞いたと言っておきます。もう夜深いので、一度家に帰られるといいでしょう。助けて頂いたお礼は、後日に。」


 そう言ってアレスは部屋のドアを開け、ライムたちに帰宅を促す。

 先程とは打って変わって、黒縁眼鏡の奥で優しい笑みを浮かべていた。

 本当に変わった人だ、とライムは思った。


 部屋の外はもうすでに真っ暗になっている。


 他の受験者たちの安否も心配だ。

 ーーどうか、無事でありますように。

 ライムは気休めでもいいからと受験者たちの安否を祈った。





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