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126 気付き




 一瞬何が起こったかわからなかった。

 あまりの突然の出来事に、思考が停止しライムたちは目を見開く。


 ダラダラと滴り落ちる血の滴が、もうすでに取り除かれた窪みから溢れてくる。

 ぐじゅりと抉られた瞳からは黒い瘴気が立ち込め、薄暗い空間にどんよりと輝く魔法陣が浮かび上がる。


『国王様!!!』


 始めに声を上げたのはシオンだ。

 ルドルフに駆け寄り、出血している瞳があった箇所を庇いながら肩を支える。


『ライムッーー!』

『わかってる!』


 掛け声と共にルドルフに『完全回復魔法』を施す。抉られた箇所はじわじわと魔法によって原型を取り戻していくが、あまりにも突然すぎた。


 無様に抉られた瞳の奥は正気を失い、光をすでに感じないモノになっている。


 ふとレイラは何かを察知たのか辺りを見渡し、それを感じたジュエルが側へ駆け寄る。


『レイラちゃんあれってーー』


『わ、これ…お、おねえちゃん!!まほうじん、ひらいてるよ!!』


 2人の視線の先には、抉り出した目玉から徐々に大きさを増していく魔法陣があった。


『気付かれたわ!!みんなこっちにきて!』


 まずいまずい!この魔法陣の色、大きさ、複雑さ……明らかに普通のものじゃない。

 これはーーラクリマの魔法陣。


『完全防御魔法!!みんな!!くるわ!』


 ライムが大声で促したと同時に、黒い魔法陣が部屋全体に広がり、圧力がかかったように身体が重くなる。

 

 ライムたちの身体を突き抜け、一気に魔法陣の文字列がばらけて弾けた。




 パンッッッ!!!




 轟音が鼓膜に響き、張り裂けそうになる。

 ジュエルはレイラを庇うように抱きしめ、シオンはルドルフの肩を抱き、ライムは両手を広げて魔法結界を保持する。


 揺らぐ。揺らぐ。


 存在は見えないのに、感じないのに、圧倒的な存在感。

 そこに何かがいる。

 視界がぼやけて霞む。耳鳴り。吐き気。


 これはーー恐怖だ。



 そこで、ようやく声がした。



『あ”ぁーーーーもう少しだったのにな。まぁせっかく君の近くにこれたし、遊ぼうよ』



 悔しそうに目を細めてから、こちらを見るとニヤリと嗤う口元。

 少年のような背格好なのに、顔は塗り潰されているように黒く、手先は爪が伸びきって歪な形をしている。


 恐怖、憎悪、絶望。


 様々な感情が駆け巡り、脳内で流れる『複数の感情度の獲得を承認しました』と機械的な言葉を無視してライムは叫ぶ。


『お前を!!!!許さない!!!!』


『おーーー、威勢がいいねぇ。ルドルフに僕のことを教えてやったのは君かい?せっかくの永遠の命だったのに……残念なことをしたなぁ。まさか物理的に目玉を抉るなんて、普通の人間だったら考えないよ』


『違うな。国王様はすでに気付いていた』


 シオンが国王を庇いながら、睨みを効かせる。


『国王様はあんたと繋がっていることに気づいていたんだ。でも、体を渡さないために自ら瞳を取ったんだ』


『ふん、国王の騎士か……いやまだ見習いじゃないか。ん……?お前、そのアビリティ……どこで手に入れた?』


 ギョロリと目を見開いたかと思えば、一瞬にして『防御魔法』をくぐり抜けシオンの目と鼻の先まで距離を詰めた。


 瞬き一つだけの出来事。

 あまりに突然の行動に身体がついていかない。行けるはずがない。


 奴の周りだけどうも空間が捻れているように思えた。


(魔法は完璧なはずなのに……!!)

 魔法は絶対だ。なのに、効力を発揮していないなんて。そんなのありえない。


 焦燥が全身を覆う。

 違和感を拭えずレイラを方をちらりと見ると、彼女はハッとした表情をして恐る恐る言った。


『ほんもの、じゃ、ない』


 彼女が所持している『叡智魔法』が教えてくれたのだろう。違和感は確信に変わる。


 幻覚だーーー!


 ラクリマの幻覚はシオンの姿を捉えると、ニタリと嗤いながら手を伸ばし、彼の頬をぐにっと掴んだ。


『ぐ………』


 存在に圧倒されたシオンは動けずに、首を振るようなわずかな抵抗も許されない。

 それだけの圧力がライムたちにかかっていた。




『もう一度聞く。お前……そのアビリティどこで手に入れた?』





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