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124 邂逅




「君は……いったい何を言っている?」


 ルドルフから冷ややかな声色とともに非情な目線がライムに送られる。


 氷のように冷たい視線からは背中の奥まで刺されそうなくらいの鋭さを感じた。


『その、瞳……』


 どこかで引っかかっていた。

 ルドルフの瞳は確かにピアノと同じラベンダー色で少しくすんでいる。

 どちらかと言うと高貴なバイオレットカラーだ。

 バイオレットは昔から伝統的な貴族や王族が身に宿していた色だと言われていて、この国の王は歴代、身体の一部にその色を宿したという。


 ある者は爪に、ある者は頭髪に、そしてルドルフとピアノはその瞳に。



 これを、素晴らしいバイオレットカラーだと、親子で似ている伝統的な色、さすが高貴なお方だと周りの人間は崇め諂うだろう。


 しかし、そのくすんだ色の奥。


 じっとりと見なければわからない。

 かつ『明瞭魔法』『魂核魔法』で本質を見ようとしなければ気付けないほどの歪み。


 素晴らしい色彩だと思う。

 これは本音だ。


『国王様の瞳の色は、素晴らしいですね』


 ライムがぽつりぽつりと言葉を紡ぎ始めると、ジュエルは私が行う無礼に信じられないと言う目で見ている。いつになくそわそわしている様子だ。


「瞳がどうかしたか……。娘と何の関係がある?!」


 思いもよらぬライムの行為と言動に拳を握り、怒りを滲ませるルドルフ。

 横目で見るとジュエルがヒィッと声を上げて肩をガタガタしていた。


 あまりの気迫に蹴落とされそうになるかと思った。

 けれど、杞憂だと気付いたのは自分を客観的に見れたからだろうか。

(………怖く、ない。何も……感じない。そうね、私はやるべきこと伝えるべきことに集中するだけ)


 特に可笑しなことだとは思わなかった。

 人は思い通りにならなければ、憤慨するものだ。


 ましてや大事な娘のこと。

 怒らない方がどうかしている。


 それほど娘のことを大切にしているのだ。


『国王様』

「なんだ……!?私は……ただ、娘を助けたいだけなんだ!」


 悲痛な叫びはもはや国王の厳格さを差し置いて、ただ1人の父親だということを感じさせる。

 だからこそ、伝えなければならない。



『国王様はご自身で気付いていらっしゃる。未来を見通す力ではなく、"永遠に生きる力"をピアノから受け取っていることに』



「…………!!!」




 ーーそう。

 国王はーー自身の瞳の魔法陣を通して、無意識化にピアノから力を受け取っている。


『魂核魔法』でピアノの魂を覗いている時、ふと違和感に気付いた。

 ピアノの寿命は刻々とすり減っているのだが、その分の命が別のものへと変換されていたのだ。


 それは明らかに国王ルドルフのものだった。


 覗いて見なければわからない闇の中。

 そしてルドルフは何かしらの理由があって、解決できない問題だと思い込まされていたようだ。


『どうしようもないのだと、解決しようもないのだと、どうしてそう思ったのでしょうか?何を感じて、何を知って、国王様は諦めたのでしょうか?』


(本来の国王様だったら、気付けたはず。気付けなかったのはきっと、、黒き魔法陣が思考に鈍らせていたから)


 未来を見通す力はもともと国王様のアビリティだ。

 何故かはわからないが、それをさもピアノから受け取ったかのように見せられていた。


 実際に得ていたのは永遠の命。

 ピアノの命を代償にして、国王は永遠の命を手にしていた。


 瞳の中の魔法陣は精神的にも影響を及ぼすのだ。



『…………国王様は一度でもピアノの気持ちに寄り添ったことがありますか?』

「…………あ?」


 ぐしゃり……と自らの髪を握り、目を伏せたのを見て国王様から怒りの感情が徐々に消えていくのがわかった。

 ……思うところがあったのだろうか。


『ーーピアノは貴方のために、本当に死にたいと、そう思っていたのですよ』


『魂核魔法』で改めて知ったピアノの想い。

 ピアノの根底にある気持ち。

 ライムは意を決してルドルフに言葉を告げる。



『どうか、ピアノと対話を』



「…………っ」



 目を伏せたままのルドルフは、自分の符合しない気持ちと感情に揺れているようだ。


(対話して、気持ちの整理がつけばきっと国王様を支配していた悪しき考えが解けるはず。そこで黒き魔法陣を取り除ければーー)


「わ、私は……『未来を見通す力』に、頼りすぎていた、のかーー?」


 疑問を口にするルドルフ。

 額には汗が滲み、初めて目にする焦りのようなものを感じる。


 完全とはいかないものの、徐々に自分の行いに疑問を呈している様子だ。

(さすが国王様だわ……。情報を整理し、現状をすぐに把握しようとなさる)


 ルドルフの瞳の魔法陣と精神面は密接に繋がっている。

 だから本人の自覚がなければ、この繋がりを断つことはできないーーそうライムは考えている。

 だからこそ、確信を得るためピアノとの会話が必要であるのだ。


 そう思い、再びピアノに『魂核魔法』を施そうとすると、


『おねえちゃん』


 レイラが近寄ってきて、こっそりと私に耳打ちした。


『あの、あのね、おめめさんがどうしてもって。……おしえてくれたんだけど』


(……?なにかしら。何か嫌な予感がする。あまり聞かなくないような……けれどそんなわけにもいかない)


 ざわざわと蔓延る嫌悪感を振り切り、落ち着いてレイラちゃんの言葉を促す。


『ええ。話してみて』


 ライムがこくりと頷くと、


『くろいまほうじんをつくったのはーー』

(………っ?!)



 ーーラクリマ。



 レイラちゃんは一息にそう言い切った。

確かに『ラクリマ』と、そう言った。


『ーーーえ?』


 瞬時に背筋が凍り、冷や汗が流れる。

 突然の発言に驚きを隠せず、目を丸くしてしまう。

 これがどういうことか。

(今から起こることに私はーー私はーー)

ぐるぐると色んな負の感情に支配されそうになる。


 もし、瞳に魔法陣を埋め込んだのがラクリマだとしたら?

 ピアノの命を引き換えに永遠の命を国王ではなく、ラクリマが手にするのだとしたら?


 全ての元凶ともいえる存在。


 ラクリマは私を追ってーー殺そうとしている。

 必ず殺す、と彼はそう言ったのだ。

 実際に私はラクリマが仕掛けた化学者と黒い影『ドーマ』に追われている。


 理由は私の中の『創生の魔術書』だ。

 彼は『創生の魔術書』を集めることを目的としているのだ。



 そいつが国王の瞳の中の、黒き魔法陣と繋がっているーー?






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