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117 キラキラ




 ライムが『創世魔法』でもともといた世界へのゲートを作ると、再び虹色の光が辺りに立ち込めた。


 ぶわりと地面から湧き上がる光の粒が、ライムとレイラを包んで行く。


「このせかいはどうなっちゃうの?」


 レイラが辿々しくライムに尋ねる。


『トードリッヒさんの世界は、トードリッヒさんがいないと成り立たないの。今はレイラちゃんが核を持っているから大丈夫なんだけど、世界を移動したら……もう崩れちゃう』


 名残惜しいのかもしれないと、そう思った。

けれど彼女の反応は思っていたよりも明るくて、


「そっかぁ……。じゃあつぎのせかいで、またいろんなものつくろう、ねっ」

『そうだね。お母さんも見つけないとだね』

「うん!きっとみつかるとおもうの!」


 上辺だけの明るさだとしても、きっと前を向こうとする気持ちが大事なんだと思う。


 2人でゲートに足を踏み入れると、後ろの方からサラサラと世界が崩れていく様子が見て取れた。


 トードリッヒさんの世界が崩壊したのだ。




====




 ゲートの先には、シオンとジュエルが待っていてくれた。


『おーーいっ!遅かったじゃねぇか!ライム。何にも問題は起きなかったかよ……って、あれ、女の子?』


『わ、可愛いね。どちらさまかな?』


 2人と軽いハグを交わしながら質問に答えていく。


『レイラちゃんよ。トードリッヒさんの娘さんで、ようやくこっちの世界で過ごせるようになったの』


 ライムがにこりと微笑むと、レイラも合わせて小さくはにかみ、それから恥ずかしそうにキョロキョロしている。


『大丈夫だ。ここには悪いやつも今のところきてないぞ』

『いまのところ……?』

『あはは……』


 シオンが安心させるつもりで言った言葉も、私たちにとってはヒヤッとしてしまう。


「すごく……キラキラしたおしろ……」


 周りを見渡すレイラちゃんを見て、もしかしたらこういった煌びやかな建物は初めて来たのかもしれないと思った。


『そういえば、国王様は?』


 ぐるりと見渡し魔力感知もしてみたが、反応がない。魔力感知が阻害されるような場所にもいるのかしら?何か問題が起きていなければいいけど。


『ああ、それなら……』

『うん……ピアノのところへ行ってるよ』


 シオンとジュエルが顔を見合わせて、少しだけ哀しみを帯びた表情をした。


「ピアノ、さん……?」

『レイラちゃんには話してなかったわね。ピアノはね、私の大事な友だちなの。とっても大事なね』

「そうなんだ!でもなんでいまはいないの?おねえちゃんのことだいすきなんでしょ?」

『ピアノはね……今は、眠ってるんだ』

「そっか、おねぼうさんなんだね!」


 事情を知らないレイラは悲しみを吹き飛ばすくらいの可愛らしい微笑みを見せてくれる。


(そう……ちょっとお寝坊さんなだけなんだから)


 ピアノは私の唯一の女の子の友だちで、初めて心を許せるくらいの仲だった。

 今は黒き魔法の魔法陣によって、寿命がすり減ってしまうのを防ぐために、ぐっすりと眠っている。


『魂核魔法』であれば、魔法陣に支配されたその魂を解放させてあげられる。


(ようやく……助けてあげられる。今行くわ、ピアノ)




====




 ピアノが眠っていると言われていた部屋を、国王から聞いていたジュエルに案内してもらいながら、長い廊下を歩く。


『さっき場所を教えてもらったんだけどね。正しい順序で廊下を渡らないと、たどり着けない部屋なんだって』


 目を擦った後のジュエルの長いまつ毛が揺れて、大きな瞳を際立たせる。


「わぁ、おにいちゃん。おにんぎょうさんみたい……!」

『……ふふ、どうもありがとう』


 眠そうなジュエルはレイラに褒められて満更でもないようだ。後ろの方で更にシオンが『俺はどうかな?』と聞き、「おにいちゃんはかっこいい!」という微笑ましい会話を続けている。


『レイラちゃんはさ……もとはトードリッヒさんの世界にいたんだよね?向こうの世界は、その、大丈夫なの?』

「うん。おねえちゃんがね、おとうさんをたすけてくれたの!せかいはもうなくなっちゃったんだけど……おとうさんとはずっといっしょなんだ!」


 ジュエルが質問すると、一瞬だけ俯いたレイラはぱっと顔を上げて、はきはきとした明るい声で答える。


『そっか。この世界は初めてなんだよね?』

「うん!キラキラたくさん!」

『何か困ったことがあったら、いつでも言ってね』


 ジュエルがまるで本当のお兄ちゃんみたいに優しくレイラと話している。


 そうこうしているうちに、ピアノがいる部屋の扉の前へ着いた。


 その扉には初めてみる模様の魔法陣があって、一目で解読は難しそうだ。


『時間かかるかも……』

『しっかり閉まってるみたいだな』

『待つしかない、かな?』


 3人ともうーんと首を捻ると、間から割って入ってきたのはレイラだ。


「はいっ!わたしならすぐ、あけられるよ!」





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