11 お呼び出し頂きました〜
白い巨大な建物の中のステンドグラスには夕暮れ時の光が差し込み、広場を茜色に染めていた。
夕暮れ時は本来なら、仕事を引き上げ皆自宅に帰る時間だろう。
しかし辺りは試験官たちや兵士たちが集まりざわざわと騒がしい。
広場の外野には民衆が野次を作っていた。
ライムはあることに気がつく。
ーーあれ?受験者たちが見当たらない。
周りにいるのは場を取り仕切っている人たちで、私たちみたいに若いグループがいない。
本当だったらグループ試験が終わった者が戻ってきているの時間なのに。
「ライムも気づいたか……。」
「シオン……。他の受験者が戻ってきてない、、」
「ああ。これは厄介なことになりそうだ」
シオンが険しい顔をしながら、辺りを見渡す。
ふと、近くにいた兵士と目が合った。
「お、おい!!戻ってきてる奴らがいるぞ!!」
「なんだって!!!どいつだ!早く話を!!」
「私の子どもたちを見ていない?まだ戻ってきていないの?ねぇ!!」
「お前!移動用魔法陣は使えたのか?!誰も戻ってきていないんだよ!」
いきなり声をかけられ、私たちの周りに人がぞろぞろと集まってくる。
兵士もいれば、受験者の親らしい人もいる。
「収拾がついていないのか……?自衛団や騎士団は何をしているんだ……!!」
シオンが焦った様子で近くに取り締まる者がいないか探している。
やはり試験で起きたことが人々の混乱を招いているようだ。
「どうやら、帰ってきたのは僕たちだけみたいだね」
ジュエルがボソッと横で口を開く。
帰ってきたのが私たちだけ??
ーーおかしい。
私たちは移動用魔法陣が黒い雨で濡れてしまったから修復したけれど、防水のバックに入れたらまず濡れない。
しかも、試験会場から森まで瞬間移動して様子を見ることも可能だ。
あ、瞬間移動は私の固有スキルだっけ?
だとしても帰る手段なんていくつも方法があるはずだけど……?
「様子を見ようにも森を大きな結界で塞いでやがって、魔法が効かねぇんだ!上からの指示はまだか?!」
「まだ来てねぇな……。急に受験者が帰って来なくなって森に干渉できないときた。これはまずいぜよ!」
少し離れたところで、3人の兵士が大声で話し合っている。
どうにも、判断がつかず上からの指示待ちらしい。
「いい加減にしろ!!喚いても仕方ねぇだろ。ほら、騎士団長様がいらっしゃったぞ!!」
1人の男が声を張り上げる。
すると建物の奥から大柄な人物が、道の真ん中を通って堂々と歩いてきた。
「皆、まずは落ち着け。直、夜になる。冷える前に民衆は自宅で待たれよ。分かり次第、それぞれに言伝することを約束しよう。第1騎馬隊は私とともに北の森へ向かう。第2、第3騎士隊は学園区の警備を強化せよ。それと、ミザリの研究者に連絡を取り、森を覆っている結界の解析を頼め」
「御意」
「これは王のご判断でもある。伝達魔法で時間をとったが王国区の耳にも入っている。何が起きているか検討もつなかない緊急事態だ。速やかに持ち場につけ」
金髪で髭を生やしたガタイのいい中年の男は、テキパキと指示を出し、いとも容易くその場をまとめ上げた。
指示を受けた者たちが、慌ただしく声を掛け合い行動している。
「それとーー」
騎士団長と呼ばれる男は私たちの方を凝視した。
ーーやばい。
ライムはなぜかそう思った。
帰れなくなるやつだ、と直感で感じる。
私はこんなにも帰宅を望んでいるというのに……!
そんなライムの思いも虚しく、騎士団長の言葉は続く。
「お前たち3人には話を聞きたい。アレス。お前に一任する、この者たちの話を聞いてくれ」
「フヒヒ……かしこまりました」
騎士団長の一歩後ろに立っていた男は、奇妙に笑いながら深々と腰を曲げる。
ふと感じる違和感。
ーー今3人って。
私たちって、4人だよね?
ライムが疑問に思っていると、騎士団長は突然片膝をついた。
「姫さま。このような事態になったこと、不徳の致すところです。王が心配していらっしゃる。すぐに王宮へお戻りください」
そう言って騎士団長はピアノの前に跪き、頭を垂れたのだ。
ーーえ?お、お姫様?!
「な、え、ピノ?あなたってーー?」
「ピノさん?!」
「おいおい、まじかよ。俺はお姫様と一緒にいたってのか?!」
シオンもジュエルの予想外の出来事に戦慄しているようだ。
一歩下がり目を丸くしている。
「みんな、黙っててごめん!!事情は収拾がついてから、改めて話すわ……」
ピアノがお姫様ってことは……お父さんは国王様?!
どおりで、高度な追跡魔法が施されていたわけだ……。
そして、やっぱりと言っていいよね。
呼び出し頂きました!
どうか神様、私をぐーたらの生活に戻してください。




