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104 再会




 門をくぐると以前と変わらない色鮮やかな建物がぐるりと辺りを埋め尽くしている。


 ライムが降り立ったその場所は、その建物たちから少し離れた緑の平地だ。


 トードリッヒさんたちは入り組んだ迷路のような市街地を抜けた先の公園にいるはず。


『魔力感知』はしっかりと3人の位置を示している。


『良かった……。レイラちゃんも、ライラさんもいるみたいね』


 レイラちゃんは呪いのせいで魂を失っていて、トードリッヒさんはその呪いを肩代わりしたせいで黒き魔法をその身に宿している。


 ……レイラちゃんを助けるために私はここへ来た。


『創生の魔術書』から得た魂についての情報。

これがあればきっとーー。


 銀髪をなびかせて、ライムは足取りを進める。

 そうして建物たちの入り口に立って、細い道をひたすらに進み、段差を飛び越え、路地裏のような狭い隙間をくぐり抜け、ようやく私は開けた小さな公園へ出た。


 ぱっと眩しいくらいの光が差し込んで、思わず瞬きする。


 目を開くとそこには、彼がいた。


 トードリッヒさんだ。


『お久しぶりで……』


 駆け寄ろうとして、すぐに異変に気がつく。

 あんなに背が高く、スラッとしていた彼がずいぶんと小さく見えたのだ。


『あぁ……ライム殿。無事でしたか』

「おねえちゃん!!またあえたね」

「…………久しぶりね」


 奥の方から、レイラちゃんもライラさんも顔を覗かせる。


 小柄で蒼い瞳のレイラちゃんは可愛らしくぬいぐるみを抱きしめ、切長な瞳がクールなライラさんは彼を隣で支えている。


『お久しぶりです。長い時間お待たせしてしまってごめんなさい。ようやく、レイラちゃんを治す手がかりが掴めて…………』


 そう言い始めたところで、トードリッヒさんとお目が合い、彼の瞳は紅く染まっていたために思わず言葉をつぐんでしまった。


 血の涙を流しているみたいに濃い紅色だ……。


『あぁ、気にしないでもらって大丈夫ですよ……』

「おねえちゃん?」


 トードリッヒさんが何でもないと言う風に言うが、レイラちゃんは不安気だ。


『目が、赤く……見えたので、少し心配になりました。それに少し背も縮んだような気がします』

『貴女にはそう見えるのね。私たちにはいつもと変わらないように見えるけれど』


 ライラさんが気になることを言い、俯くと、それを見かねたトードリッヒさんが、


『……やはりライム殿は特別な眼を持っていらっしゃる』

『?』

『私も同じように魔術書を読みましたが、きっとこれは絶望を知る者だけの瞳なのでしょうね。ライラが知らないところを見ると、2冊以上でしょうか……?』


 ライラさんを横目見てから、すぐにライムの方へ顔を向ける。


『それとライム殿も、一般の人からは分からないでしょうが私から見ればーー血の涙を流しているように見えますよ……』

『えっ……』


 咄嗟に目を拭うが、手に血はついていない。


(絶望の付与?それとも、トードリッヒさんが言うように魔術書を読んだ者のみの特殊な外見的変化が?)


 ライムの疑問に『叡智魔法』が答えるより先に、彼は答えてくれた。


『あなたも寿命が近いのですねーー』


 その顔は悲壮に歪み、けれど、わずがに光を見るような表情でゆっくりと微笑んだような気がした。

 トードリッヒさんは真っ黒な見た目なので、その表情は見えないのだ。


 彼は静かに続ける。


『私も、もう長くないのです。持ってあと数日でしょうね』

「パパ……レイラがいるからだいじょうぶなんだよ?つよいおねえちゃんもきてくれたよ!?」


 レイラちゃんが必死にトードリッヒさんを説得するが、彼の瞳からはもう希望は感じられない。


 ……彼も私も同じように背負っている『黒き魔法』。絶大な魔法を使える代わりに、その身体を黒く灰にしていく。

 もちろん、その負荷に身体は耐えられないため、普通の人よりも寿命は短いのだろう。


『そんな……!!私魔術書4冊も読んだんです。友人の力を借りてーー。だから、なんとかーー』

『…………』


 彼は一度だけ首を振ると、


『自らも同じように身を滅ぼす立場でありながら、他人を心配するなんで、ライム殿は相変わらずですね』


 と、表情を崩したような気がした。




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