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 目の前に、いた。


 シオンだ。

 シオンがいる……!


 ジュエルは隣で腕を枕にして気持ち良さそうに眠っている。


『ぁ…………』


 すーぅっと息を吸い込む。

 目頭が自然と熱くなる。

 熱い。

 涙が、涙が溢れて止まらない。


 そばには私を囲むようにシオンとジュエルが寄り添っていてくれていた。


 そして、夢の中で背中が軽くなったような感覚。

 その理由を一瞬で理解した。


(……叡智魔法、教えて)

 静かに目を閉じ、問う。

 夢では使えなかったけれど、もう使えるはずだ。



ーーーー

『魔法白紙』された白き魔術書はライム・アルベルト(呼称)と同化し、本人が持つ失われていた記憶をページへ移譲することで、記憶が覚醒しています。


 さらに、シオン・シューベルト、ジュエル・エルガーテによる『イメージ化魔法』の効力で『食欲・睡眠欲・性欲以外の欲求の欠如、及びこれら三大欲求が誇張する絶望』が分散されています。


 状態付与の効力を追求中……。


 追求完了。


 シオン・シューベルトに付与された絶望:《食欲の誇張》

 ジュエル・エルガーテに付与された絶望:《睡眠欲求の誇張》

 ライム・アズベルトに付与された絶望:

《性欲の誇張》

《黒き魔法の発動のたび、身体が黒く灰になる》

《定期的な絶望を得る》

《眠るたびに絶望的な死の恐怖を得る》


 以上がそれぞれに付与されています。

 分散されたことで絶望自体の効力の低下を確認しました。

ーーーー



『なんだか、食欲がとまらないみたいでな……』


 そう言ったシオンの片手には非常用の干し肉が握られている。


『ジュエルはすぐに寝入っちまった。体調は悪くないみたいだが。ライムはどっか悪いとこないか?とにかく、起きられたみたいで良かった……』


 涙を流しながら干し肉を引きちぎり、話出すシオン。

 その姿は側からみれば滑稽に映るだろう。


 しかし、ライムは別の大きな思いで胸がいっぱいだった。




『ありが……とう。助けてくれて。本当に……でも、2人とも……!!ごめんなさい……!』




 声が裏返り、涙と嗚咽でぐしゃぐしゃだ。

 精一杯手で拭っても追いつかないくらいに。

 そんなライムを見ても、



『ーー謝る必要ないてないさ。友達だろ?』



 とシオンは笑うのだ。

 苦しみと切なさと悲しみと嬉しさがいっぺんに襲う。




====




 ーーライムの荷物半分もらうぜ。


 その言葉がどんなに嬉しかったか。


 たぶんシオンとジュエルにはその気持ち大きさの半分も伝わらないだろう。


 シオンとジュエルが来てくれたおかげで私はまたこうして自分でいられる。


 あのままだったらきっとーー


『……魔術書に呑まれてしまっていたわね』


 完全に驕りだった。

 自分だったらできるのではないかという驕り。

 いくら力を持っていたとしても中身はただの1人の人間だ。


『ふぁあ、魔術書ってさ……嫌なもの全部詰め込んだパンドラの箱のみたいだよね』


 ジュエルがあくびをしながら、何気ない口調で話出す。


『絶望を分けてもらってわかったんだけど……魔術書は膨大な魔法と知識を持っている。しかも同時に絶望も詰め込まれてる、だからさ、まるで神様が嫌なことを無理やり押し込めたみたいに感じがするよ。

商人になるために駆け回っていた時も……よくさ、嫌になって破産して全部投げ出す客もいたなぁ……』


『さっき寝たばかりなのに、ジュエルは眠たそうだな』


『シオンは、食べてばっかり……ぐぅ』


 食事をとっているシオンと一言会話を交わすと、またすぐに寝入ってしまった。


 罪悪感が胸の中に広がるけれど、それはもうそれほど大きな感情ではない。

 むしろ感謝の気持ちの方が大きい。


 2人には何度も感謝伝えて何度も謝った。

 しかしやっぱり、そんなことをする必要はないときっぱり言われた。


『ありがとね……』


『気にするなって、何度言ったはずだぞ。それより……ピアノはどうするんだ?』


 ピアノのは依然、私の作った別の世界の中で魂を拘束されている。

 今回読んだ『創生の魔術書』の力で助けられる算段もついてきたところだった。


『うん。もちろん、助けに行くよ。でもその前に寄りたいところがあるの。ピアノにかけられた魔法陣は魂と結びついているから、慎重にいくわ。……それでもいいですか?国王様』


 シオンの質問に答えた後、振り返って後ろに腕組みして立つルドルフを見る。


『かまわん。娘を助けてくれるなら、なんだってしよう』


『ありがとうございます』


 初めに行きたいのは、トードリッヒさんとライラさん、そしてレイラちゃんのところだ。


 彼らもまた、この世界で生きられない身体のため、別の世界で暮らしている。

 その世界はライムが作ったものではなく、トードリッヒさんが創り上げたものだ。


 私の予想が正しければ、トードリッヒさんの身体はもう長くない。

『黒き魔法』を長きに渡り使用したせいで、身体はぼろぼろなはずだ。


(私もいずれーー)


 いや、今はよそう。

 それより、トードリッヒさんのところへ行って願わくばピアノの魔法陣についても聞きたい。

『黒き魔法』に詳しいトードリッヒさんなら何か知っているかもしれない。




====




『じゃあ、ちょっと行ってきます』


『そんなご近所さんに会いに行くみたいな……』


 なんだか、広間に案内されたけど世界間の行き来には広い場所を必要としない。

 等身大のスペースさえ有れば、自由に行ける。

 だけど、特にシオンは心配性みたいだ。


『また、戻って来れなくなったら心の中で叫ぶんだぞ!』


『うん、わかったわ。ん……心の中?え、シオンーー』


 そういえば、どうしてシオンとジュエルは私のいる場所がわかったのだろう。

 言葉を開きかけて、じっと考える。


 思い返してみても、私は2人にはこの先会わないつもりだったし、ミザリから帰ってくることも言ってなかったはずだ。


『叡智魔法』が自然と発動すると、

ーーーー

 シオン・シューベルトは『心中暴露』のスキルを獲得しています。

 ある程度離れた距離でも、心の声を読むことが可能です。

ーーーー


(わ、心の声が丸わかり?!)


『そうだぞ!』


(へぇ!!凄いわ!!思ったことだけで会話ができる!)


『俺のスキルで遊ぶんじゃないっ』


『あははは』



 そんなたわいもないやりとりをしてから、私は両手を広げて魔力を練り上げる。


 扉をイメージすると、徐々に大きな朧げな形が出来上がっていった。


 ーー『世界の創生』


 このスキルを持つ者しか世界間の行き来はできない。

 知る限りではトードリッヒさんと私しかいないはずだ。


 黒く淀む渦を見て一瞬吐き気がしたが、気のせいに思うことにした。


 黒だからいけないのか。


(どうせなら、鮮やかな色にーー)


 ライムと同じくらいの背の高さの扉は、黒から徐々に色を帯びていく。

 青、黄色、黄緑ーー。


 そうして、トードリッヒさんの元へ繋がる虹色のゲートが出来上がった。




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