10 帰還
「にしても、これだけの魔法を使えるのに何故ライムは不安そうなんーーいや、無粋だったな。話さなくていい。皆何かしらの理由があるからな」
シオンが温かい目でライムを見て、言葉を言い換える。
気を遣ってくれたのかな。
私としてはとても助かる。
ジュエルの方はシオンの言葉を聞いて、えっという顔をしている。
複雑そうな表情をしてソワソワしていた。
商人の家系ということもあって、情報は得たかったのかもしれないな、とライムは思った。
「そのことなんだけど、私が魔法を使えることは秘密にしておいてほしいの」
「もちろんだ。色んな人が集まる土地だからな。人によって事情も違うし、あるのが当たり前だ。ライムは気にしなくていいぞ」
「シオン、ありがとう。とっても助かるわ」
「僕は……知りたかったけど、我慢する」
あっ、ジュエルはやっぱり気になってたんだ。
話せなくて、ごめんね。
「だが、試験に来ているのに全く使えないというのは不審がられてしまうから、ある程度は使える、ということにしておいた方がいいな」
「わかったわ」
「私もライムのとんでも魔法は内緒にしておくわ。……でも帰ったらお礼をしたいの。パパには助けてもらった、とだけ伝えてもいいかしら?」
とんでも魔法……?
そんな魔法使ったっけ?まあいいっか。
お礼なんて、ピアノは律儀なんだなぁ。
「そ、そんな私はただ、直しただけで……」
「ううん。ライムちゃんは私の恩人よ。改めてお礼をさせてね」
ピアノはぎゅっとライムの手を握った。
熱が伝わってくる。
ピアノは「ありがとね」と微笑んだ。
さっきから感じていたけど、みんなの距離が近い。
魔法陣修復の時は一大事みたいだったからしょうがないけど、そんなに気軽に他人に触れられるなんてわ、私にはできないな……。
ピアノに手を握られ、控えめに照れながらライムは思った。
小さい頃にあまり愛情に触れず、スキンシップされてこなかったライムにとって、他人に触れるのはかなり遠慮してしまうことだった。
だから、先程のピアノやシオンの抱擁も過剰に感じてしまったのかもしれない。
ーーでも、ピアノに抱きつかれた時のドキドキと、シオンに引き寄せられた時のドキドキは違う感じだったような気がする。
今もそう。ピアノに触れている時は温かい感じ。
シオンの時は……ただひたすらドキドキだったわね。
よくわからないとライムは思った。
みんなとの距離を図るのはもっと軽い感じでもいいのかな?ともライムは思ったが、自分では恥ずかしくてとてもじゃないけどできないなと考えを改めたのだった。
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「じゃ、そろそろ帰ろうよ。黒い雨の原因は帰ってから何かしらの事情説明があると思うし」
「ジュエルの言う通りだな。ピノの魔法陣も消えたとなると、試験用のトラップ魔法陣も消えている可能性が高い」
「それで……なんだけど。ライムさん、さっき魔法陣修復の魔法、イメージ化魔法だっけ?もう一度お願いしてもいいかな……?」
「どこかの魔法陣が壊れてるの?」
「うん、帰還用魔法陣も黒い雨に当たっちゃって、ほぼ消えかかってるんだ」
「ライムがいてくれて命拾いしたな……」
ライムはジュエルから、消えかかっている移動用魔法陣の紙を渡される。
シオンは深刻そうな顔だ。
私たちにとってもそうだが、試験自体の状況があまり良くないのかもしれない。
魔法陣を打ち消す黒い雨。
ーー被害はどれほどだろうか。
とりあえず、今は帰ることを優先しよう。
ライムはピアノの魔法陣を直したのと同じように、移動用魔法陣に魔力を込めた。
イメージ化魔法を施し、修復が完了する。
「よし!それじゃあ、俺が牢獄監禁の魔法を解くから、直後に移動用魔法陣にみんなで魔力を込めるぞ」
「わかったわ」
「まぁ、牢獄なんて残していけないよね」
「試験終了時間ギリギリだし、もう他の試験者たちも集まって騒ぎになっているかもしれないわね……」
不安を覚えながら、ライムたちは魔法陣に手をかざした。
「みんなお疲れ様だったな。「牢獄監禁解除!」」
同時に、移動用魔法陣が発動し、ライムたちはもとの試験会場についたのだった。
そこでは案の定、騒ぎが起きていたーー。