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「疲れているのも分かるんだけど、そのままでいるのかい?」
「……っ! 申し訳ありませんっ!」
部屋の入口に立っている顔の良い赤毛の青年に言われ、慌てて飛び起き姿勢を正す。
ベッドに大の字で寝転がっているだらしない…もとい、リラックスしていた姿を思いっきり見られてしまった。一人きりだからって油断していたのがいけないんだけど……勝手に部屋の扉を開けるのってマナー違反なんじゃ…
「ごめんね、何度かノックしたんだけど…。」
「そっ、そうでしたか!」
「階段から落ちたって聞いていたし、死んだのかと思って…失礼だけど開けさせてもらったよ。」
「ご心配をかけて申し訳ありません。」
……びっくりしたー!
心を読まれたのかと思った!!何てタイミングで発言するんだこの人は。変に心臓がバクバクする!階段からじゃなくて、この人のせいで死ぬところだったよ。
騒がしい心臓を落ち着けようと必死になってる私を見ながら、赤毛の青年はクスクス笑う。
この見慣れない赤毛の青年はアレクト・アントス、私の兄になる叔父だ。何故、兄なのに叔父なのかって?答えは簡単、死んだ母さんの弟らしいので叔父になる。だけど、祖父が私を養女として迎えたので家族関係的には兄になる。なんだかとってもややこしい。
ゲームではシャルロッテの家族関係説明された事ないし、登場もしていないので、ただの知らないイケメンお兄さんである。私自信、前世今世合わせても兄なんていたこと無いし歳も10歳くらい離れてるらしいから何だか変に緊張してしまう。
「あの…何かご用があったのでは…。」
「そうそう、夕食の準備はしてあるんだけど食べれそう?」
ーぐぅぅぅー
夕食の言葉を聞いたとたん、お腹の虫が自己主張を始めた。
そう言えば、パーティーでは断罪イベが初っぱなから始まったし、セレネ様の所では軽食はあったものの紅茶の飲み方講座だったし、帰ってきてからもベッドでダラダラ思い耽っていたので何も口にしていない。つまり、私は今猛烈に空腹なのである。
だから…
人前でお腹がなっても仕方ないよね!!
「っははは!心配は要らなさそうだね。」
「そのそうですね…。」
「じゃあ、着替えたら下においで。父さん達も待ってるよ。」
そう言うと、アレクト様は静かに扉を閉めて去っていった。
再び訪れた一人の空間に思わずため息が漏れてしまうし、もう少しダラダラしていたいけど「待ってるよ。」と言われてしまったので、さくっと着替えていきますか。
***
「お待たせいたしました。」
使用人の人が扉を開けてくれて、それが開ききったタイミングで長いスカートの端を摘まみ、ゆっくりと一礼する。
頭をあげて部屋を見ると、長方形のテーブルに椅子が四つ。その内の三つは既に座っている人がいて一人は先程私の部屋にやって来たアレクト様、その前の席に赤毛のおじいさん…もといお祖父様のアンティオペ・アントス男爵が座り、その隣に綺麗な銀髪のご婦人もといお祖母様のヒルダ・アントス男爵夫人が座っている。
唯一空いている席へ向かうと使用人の人がスッと椅子を引いてくれた。まるで高級なレストランに来たような気分になるけど、これ座るタイミングがよく分からなくて苦手なんだよね…。
おそるおそる腰を落とすといつの間にか椅子の座面に座れていた。前世でやってもらった時は膝裏に椅子が当たってドスン座ってしまい失敗したと言うのに……この人、出来る…!!
「怪我の具合はどうなのかね、シャルロッテ。」
糸目の出来る使用人に気を取られていると、祖父から声をかけられた。
慌てて返事をし、学園で応急処置をしてもらっていた事やラメール家に行ったら治癒魔法をかけてくださって痛み一つ無くなった事(覚えていないけど)を話した。
そうそう、この世界って魔法と言うものがあるんだよね。電気の代わりに魔法が発達していて照明や冷蔵庫みたいな便利なものは魔法でできているらしい。まぁ、電気だろうと魔法だろうと構造がわからないので私としては便利ならどっちでも良いかな。
「そうか。」と静かに相槌を打ってくださるお祖父様に今日出来事を報告していると料理が運ばれてきた。
よく読んでいた異世界ものだと味が質素だったり調理法が単調なのしかなかったりで残念みたいなのがあったけど、この世界のはどうなんだろう。転移じゃなくて転生したのだからこの世界の味になれているんだろうけど…前世の記憶がある今どう感じるんだろう?
目の前に置かれたお皿には、見た目ハンバーグっぽく見えるものとその上に細かく刻まれた何かが乗せられている。匂いはとても食欲をそそる感じではあるんだけど…問題は味だよね。
ナイフとフォークを手に取り、覚悟を決めてハンバーグ(仮)にナイフを入れるとジュワッと肉汁が溢れてきて焼けたハンバーグ(仮)の良い香りがさらに広がった。
一口大に切った時にこぼれてしまった細かく刻まれた何かをしっかりと乗せ、一気に口の中へ運ぶ。
こ……これは!!!
噛むごとに溢れてくる肉汁に細かく刻まれたシャキシャキとした玉ねぎのような食感のものが爽やかなハーモニーを織り成していて、すごく美味しい!!そう、これは…この料理は……
サイ○リヤのディ○ボラ風ハンバーグ(確定)!!!
ハンバーグを食べては主食として置いてあるパンを摘まみ、そしてまたハンバーグを食べる。
白米が無いのは残念だけど大好きだったメニューがまさかこの世界でも食べれるとはっ!さすがゲームの世界!異世界だけど、どこかしらは繋がっているんだね!良かった!私料理チートなんて出来ないからこの世界でも美味しい料理が食べられて幸せだよ!!
美味しさに感動しながら食べ進めていると、クスクスと控え目な笑い声が聞こえてきた。
我に返り、視線を上げると目の前に座っているお祖母様と目が合う。
「その様子だと怪我以外も大丈夫そうね?」
「あ、はい。おかげさまで…。」
「ふふ、それは良かったわ。」
優しく微笑まれるお祖母様に母の面影が見えて、何となく恥ずかしくなってしまった私は視線を下げて残りのハンバーグを口に運ぶ。
あまりお話はしないけれど、私を受け入れてくださったお祖父様に優しく微笑んでくださるお祖母様。まだ、この広いお家やマナーには慣れないし、第一の目標はセレネ様の幸せだけど…
いつかこの人達にも何か恩返しできたら良いな…。
そんな風に優しい気持ちにしてくれる祖父母と談笑しながら夕食の時間はあっという間に過ぎていくのであった。
「僕のこと忘れてないかな、シャルロッテ?」
「…!!!忘れておりませんとも!!!」
***
シャルロッテの家族紹介回でした~。




