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「ただいまぁ、マイベッド!!」
帰宅して早々一目散に自室へと向かい、服も着替えずにベッドへとダイブする。
慣れない大きな屋敷(セレネ様の屋敷ほどではないが)の広い部屋(セレネ様の自室ほどではないが)で唯一寛げる場所へたどり着き、ようやく一息つくことができた。
本当、濃い一日だった。
階段から落ちた事で前世のことを思い出し、セレネ様の断罪イベを乗り越えてからのお宅訪問。セレネ様と語り合い、そしてお、お友だちにして、い、いただい、て……ふふ、ふふふふふふふ!
殿下のことを語る恋する乙女なセレネ様可愛かった!花のような笑顔が可愛かった!照れて恥じらっているの可愛かった!うふふふふ…ダメ、思い出すとセレネ様が可愛すぎて発狂しそう!落ち着け!落ち着くんだ私!!
…………ふぅ、落ち着いたぞ。
で、屋敷まで送ってもらう際にシスコンな弟君とセレネ様を幸せにする同盟を組んだ、と。
うん、断罪イベからのスタートにしては良い滑り出しなんじゃない?
今日が二学期の終わりで明日から二週間の休暇に入る。ゲームだとこの休みに殿下とのイベントが二個起こるので、それを活かしてヘリ×セレのフラグを立てる。
一つ目のイベントに関しては馬車の中で弟君と打ち合わせ済みなので予定日になるまでは待機だ。
殿下が三年生で今年度卒業になってしまうので、三学期のパートナー選びまでに完全にくっついてもらえるように頑張らねば…!
「あ……」
ふと、化粧台に付いている大きな鏡が目に入った。
何となく、今の自分の姿を見てみたくなって疲れて重たい体に鞭を打ち起き上がるとピンクブロンドの長い髪に若菜色の瞳をした少女が鏡に一人写る。
ゲームのヒロインと同じ姿だ。
自分自身だとわかりきっているのに、鏡に向かって何となく手を振るとゲームのヒロインと同じ少女も同じタイミングで手を振ってくれて、自分が本当にシャルロットとしてこの世界の一員になったことを実感する。
体の力を抜いて再びベッドに寝そべり今までのシャルロッテの事を振り返ってみる。
ただの一庶民として田舎町で育った私が男爵家の養女として引き取られて、最低限のマナーを教わって王都にある貴族の方が通う学園に一緒に通う。貴族の一員になったとは言え、元庶民の私に向けられるのは冷たい視線に遠くから囁かれる陰口ばかり。貴族の世界に夢を見ていた訳ではないけど、汚い人間の部分を毎日のように目にして嫌気がさしていたある日、運命の出会いをする。
そう、セレネ様との出会いだ。
すっと伸びた背筋に真っ直ぐな瞳は醜い貴族社会に咲いた気高く凛々し可憐な一輪の花。そんなセレネ様のお姿は、まさに驚き桃の木青天の霹靂。私に強い衝撃を与えてくださった。
それからの私は周りの視線や言葉を気にすることがなくなり、遠くから憧れのセレネ様のお姿を拝見することに幸せを見出だす毎日に。
見よう真似で姿勢を真似したり言葉使いを正したり、少しでも近づけるようにと勉強も頑張った。
そうしている内になぜが殿下が気にかけてくださるようになって、これ幸いとセレネ様の事をお聞きしてはセレネ様の思い馳せてときめいてみたり…。
………。
前世の記憶が有ろうと無かろうとシャルロッテ(私)は私だったみたいね。
しかも、憧れの人に対しては緊張してしまって上手く話せなくなって自己嫌悪するところまで余すことなく私自身だ。
でも、それも昨日までの話。私は精神的に生まれ変わったのだ!
ーコン、コンー
ゲームのヒロインみたいに、主人公みたいに私はなれないけれど、憧れの人の幸せを願って生きていくのって最高に幸せよね!
ーコン、コンー
セレネ様、どんなウェディングドレスを着られるのかなぁ。この世界ってお色直しとかあるのかな?王族の結婚式だから盛大に行われそ…
「シャルロット、帰っていたのなら挨拶くらいしにおいで?」
「!!!!!」
急に声を掛けられ、心臓が飛び出るかと思った!
やめてよね、生まれ変わって一日もたたずに死んじゃうところだったじゃない!
声をかけて来た人物を見るために扉の方へ顔を向けると、そこには私よりも赤みの強い髪色をした一人の青年が立っていた。
少し短め。
ようやっとお家に帰れましたが一日がまだまだ続くようです。