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悪役令嬢の恋を応援したい!  作者: 鮇 天魚
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次に向けての間のお話



それは、幾つもの偶然が重なりあった奇跡のような出来事だった。




始まりは、朝の何気ない会話から。


普段は仕事の関係なのか、朝食を滅多に一緒しない叔父さ……兄様が居て、お祖母様が嬉しそうに話しかけていていた。私はそれ光景を微笑ましく眺めながら温かいスープを美味しさを堪能していた時、気になる会話が耳に入る。



「そう言えば最近、ミーチ区とユーチ区の間くらいに新しいお店ができたそうですよ。」


「あら、どんなお店なの?」


「雑貨屋だそうですよ。良心的な値段に高品質で、すでに貴族庶民問わず人気だとか。」


「まぁ、それは素敵ね! 今度行ってみようかしら。」



ニコニコと上機嫌なお祖母様を見ながら、ふと考える。


そう言えば、弟君に返すハンカチまだ買ってなかったなぁ……。


萌え死をした図書館事件の時に借りたハンカチはとても触り心地が良くかった。

洗濯はしたものの、使ったものを返すことはできないので同じものを……と思ったのだけど、探してみてビックリ! 私が使えるお金で買えるような品物では無かった。

たかが布一枚に何故……と言いたくもなるのだけど、触り心地はもちろんの事、使用するときには邪魔にならず、けれどしっかりとその存在を主張する刺繍、端の処理の為の並んでいる細かく均等な縫い目は芸術的でこれを作られた職人さんや布地を作った生産者さんに支払う金額としては当然か、と一人納得した。


さすが公爵家、良いものを使ってるなぁ。


しかし、同じものが返せないとなるとどうすれば良いのやら。

頭を悩ませていた私はこの話を聞いて、一人街へと繰り出す事にした。




***




そのお店は兄様の話の通り、貴族向けのお店が多いミーチ区と庶民向けのお店が多いユーチ区の間にあった。

この周辺のお店は、貴族向けのお店や庶民向けのお店が入り交じっていているけれど、貴族と庶民どちらも対象にしているお店は珍しい。

そのせいなのか、新しいお店だからなのか店内は込み合っている様に見える。


このまま買い物するのでも良いんだけど……。


混んでるお店で買い物するのは大変だしゆっくり見れる気がしない。


それに……


通りの左右を見渡す。

どちらを向いても趣のある素敵な外観のお店が沢山並んでいる通りは、まるで某アトラクションパークや海外旅行にきたような気分にしてくれる。

折角一人で来たんだし時間もあるから、と好奇心の押さえられない私は目的のお店に入る前に通りを散策する事にした。


色んなお店を見て回るのはとても楽しかった。

貴族向けの仕立て屋さんでは光沢のある色とりどりの布地が織り成すドレスに心は躍り、レースやフリルに細やかな刺繍は乙女心をくすぐられるし、装飾品のお店はキラキラ輝く宝石のついたアクセサリーも見ていて憧れてしまう。

庶民向けのお店では機能の良さそうな普段使いできそうな物、異世界ならではの小物に可愛い服はついつい欲しくなってしまう。


そんな浮かれ気分で次のお店へと向かっていると、図書館でセレネ様に嫌味を言っていた子爵家コンビにばったり会ってしまった。


この二人は図書館の件でも解るように性格が悪く、目があったが最後、学園でされていたようにネチネチと陰湿な嫌がらせをされるのはわかりきっていた。


しっかりと目が合っちゃったけど、会釈だけしてやり過ごそう……。


そう思って軽く頭を下げようとしたけれど、陰湿子爵家コンビは許してはくれなかった。



「田舎者の貴女がなぜこの装飾店に用があるのかしら?」


「ここはそこらに落ちている石ころの方がお似合いなのでは?」



息をするように吐き出される嫌みから、どう逃れようかと黙って考えを巡らせる。

しかし、私のその様子が気にくわなかったのか二人の行動がエスカレートしてしまった。



「私たちを無視するなんていい度胸じゃない!」


「田舎者の癖に生意気なのよ!!」



気づいた時にはすでに遅く、ヒステリックな声をあげながら勢いよく上げられる手に、思わず目を瞑る。

そして痛みを覚悟したその時……



「そこで何をしていらっしゃるのかしら?」



透き通るような凛とした声が響いた。

驚きで子爵家コンビの動きは止まり、私はよく知るその声の方に胸が高鳴った。


ドキドキと騒ぎだした鼓動を落ち着けながらゆっくりと目を開く。

そこには夕日を背にし、まるで後光を背負いながら降臨された女神のようなセレネ様が子爵家コンビの後ろに立っていらっしゃった。



「このように人通りの多い所で騒ぎを起こすなんて……。」



頬に手を当て、ため息混じりに言い放ったセレネ様のお姿に子爵家コンビも私も息を飲む。

自分自身を取り戻し始めたセレネ様は筆頭公爵家のご令嬢らしい凛々しい佇まいで圧倒されてしまう。



「貴女達は貴族として恥ずかしくはないの? 自分の中の苛立ちをぶつけるのは簡単ですが、それで気持ちは晴れますの? ご自分の不満を周りのせいにしていては現状は変わりません。自分が変わらなければ、いつまでも苛立ちはついて回るでしょう。」



真っ直ぐに見据えて話すセレネ様。

それに対し何も言い返さず、ただ悔しそうに睨み付ける子爵家コンビ。


妙な緊張感が漂い、この場に沈黙が落ちる。



「と、偉そうに言いましたが私も知ったのは最近ですけれどね。」



いつまで続くのかと思われた気まずい雰囲気を打ち消すようにセレネ様は柔らかく微笑んだ。

そして、二人を諭すように語りかける。



「自分を変えるのは大変ですし、一人では気づけない事ばかりです。ですから……どうでしょうか? これから私と一緒に少しずつ変えていきませんか?ご自身の為にも。」



あぁ、セレネ様の器はなんて大きいのだろうか。

慈愛に満ちた、その広いお心に子爵家コンビは泣きながら崩れ落ちる。


私は今、神話のような瞬間に立ち会えたような感動に包まれていた。

しかし、奇跡はそれだけでは終わらなかった。


泣き崩れた二人の手をセレネ様が取っていると、何処からともなくパチパチパチと拍手の音が聞こえてきた。

音の先を探すと、なんとそこにはヘリオス殿下がいたのです!!


殿下を視界に入れたセレネ様は顔を真っ赤にしながら驚いていた。

けれど、殿下はそれを気にすることなく近づいていき「見事な采配だった。さすがラメール家の御息女だね。」と、それはそれは良い笑顔で言うものだから、更に顔を赤くするセレネ様は最高に可愛いらしかった。


予期せず、セレネ様と殿下のやり取りを目撃できた奇跡は一生私の心に刻まれるだろう。





***





「って事があったんですよ!!」


「流石、姉上……素晴らしい。」



先日の出来事を一部始終を弟君に伝えると感動して涙を流し、いかにセレネ様が素敵なのかを改めて語っていた。


全肯定しかないその話に相づちを打ちながら、次のイベントへ向けての作戦を練っていくのであった。





「で、返却のハンカチはどうしたんだ?」


「…………あ。」





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