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悪役令嬢の恋を応援したい!  作者: 鮇 天魚
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プロローグ

初投稿のふわりとした設定の見切り発車。

暖かい目で読んでいただければ幸いです。

悪役令嬢。

それは物語や乙女ゲームに存在するヒロインのライバル的存在であり、性格はワガママだったりキツかったりと様々だが、基本攻略対象に近づく又は好感度が上がってくると嫌みな言葉をかけてきたり、いじめ紛いな事をしたりして、最終的には破滅していくご令嬢の事である。


人に嫌がらせをする者など破滅して当然。普通なら自業自得、因果応報と思うだろう。

しかし、全てが始めから悪役令嬢が悪いのだろうか?

性格的な事もあるだろう。だが、想い人でもある婚約者が突然ふって湧いたヒロインに短期間で奪われたらどう思うだろうか?

嫌みの一つや嫌がらせなどしてしまっても仕方なのでは無いだろうか?

悔しくて悲しくて虚しくて…感情のセーブができなくてもおかしくはないと思ってしまうのである。それほどまでに愛していたのに報われないなんて悲しすぎると思ってしまうのである。


故に、私は乙女ゲームでライバルキャラが出てくるとモヤッとしてしまう。そして、それが好みの子だったりしたら全力で応援したくなる。

すれ違いならお互いの誤解をといたり、好かれていないのならば好かれるように助言を入れてみたり、どんなルートでも破滅しかないのならば徹底的に阻止して見せる。


そんな事を常々考えていたからだろうか…。




私は、乙女ゲームのヒロインとして転生していたらしい…!!!



***



二学期の締め括りを飾る社交パーティーの練習を兼ねた修了式でそれは起こった。

学園内に併設されている大ホールに初めて足を踏み入れ、テンションが上がっていたせいだろうか?

それとも、馴れない高いヒールで階段を上ったせいだろうか?

原因は定かでは無いが、階段を上がった先のその奥。金色の装飾のされた豪華な観音開きの扉が開かれキラキラと光を乱反射して会場内を照らすシャンデリアがとても綺麗で眩しくて、シャンデリアを見つめたまま進めた足は段差を踏み外し、内蔵が置いていかれる独特の感覚を味わうと階段を転がり落ち…


前世も階段から転がり落ち、そして死んでしまった事を思い出した。



前世を思いだし混濁する頭を休めたいと思うのも束の間、周囲の痛々しい視線に気がつくと羞恥心が沸き上がってくる。慌てて何事も無かった様に立ち上がりこの場を去ろうとしたが、右足首に激しい痛みが走り再び地面に倒れ込みそうになると逞しい腕に抱き止められた。


「アントス嬢、大丈夫か?」


聞き覚えのある優しい声に視線を上げると、そこには太陽の光を思わせる金色の柔らかそうな髪に晴れ渡る空のように澄んだ色をしたスカイブルーの瞳を心配そうに揺らし見つめてくる美しい顔がそこにあった。そして声同様、とても覚えがある。


「へ……ヘリオス殿下…?」


殿下の顔を見たとたん、現在までの現世で経験してきたことが頭の駆け巡る。

平民として生まれ生活してきたこと、母が死んで伯爵家へ養子として迎え入れられたこと、学園への入学といろんな方との出会い。

それらは前世でよくプレイしていた乙女ゲームの主人公の生い立ちであり、学園で出会ってきた方のなかにはヘリオス殿下含め、攻略対象者もいた。

まさか自分がネット小説でよく読んでいた物語の主人公のように転生しているなんて夢なんじゃないかと思ってしまうけど、ズキズキと痛む足が現実だと教えてくれる。


ここが、あの乙女ゲームの世界だとしたら…


二学期最後の大ホールでのパーティ、階段からの転落。

ここから導きだされるイベントは一つ。


期待に胸を踊らせながら自身が転がり落ちてきた階段を見上げる。

そこには、夜の海のような深い色の髪をアップに纏め上げ、光沢のあるクリーム色の布地に黒のレースがあしらわれたドレスに身を包んだ一人の美しい令嬢が立っていた。

その令嬢の月色をした神秘的な瞳は嫉妬の燃えていて、つり上がり気味の目はさらにきつくつり上がり私を見下ろしていた。



『令嬢スチルゲットしましたー!!!!!』



普段は緩く波打っている髪を纏め上げているのが良い!コルセットで細く絞まったウエストから広がるドレスのラインが良い!白磁のような白い肌が良い!それを引き立たせるクリーム色のドレスにアクセントの黒のレースが良い!伸びた背筋に見下す感じの視線が最高!!

ゲーム通りの構図が目の前に広がり、ゲーム通りの…いやゲーム以上の美しさの実物に思わず叫び出してしまいそうな感情を押さえるので必死だった。


コツ、コツ…と、優雅に一歩ずつ階段を降りて近づいていくる姿は天上の女神様が地上に降り立つような神々しさがある。


あぁ…私は今、大大大好きな悪役令嬢のセレネ様と同じ世界に生きているんだ!!!


ヘリオス殿下の婚約者で筆頭公爵家のご令嬢、セレネ・ラメール様。

幼い頃から殿下の婚約者として厳しい勉強をしてきて、礼儀もマナーも完璧で頭も良くて自分にも他人にも厳しいお方。つり上がった目がチャームポイントの美人さんで笑顔などの表情が苦手なせいで殿下への一途な思いが伝わっておらず、ヒロインに殿下を奪われ、嫉妬により自身をそして一家おも破滅させてしまうと言う悲しき悪役令嬢である。


殿下とヒロインのストーリーも嫌いでは無かったのだけど、今まで真面目に、殿下の為に生きてきたセレネ様の事を思うと二週目は出来なかった。


いつのまにかすぐ近くまで来ていたセレネ様の顔を見る。

この真面目で美しい人はもうすぐ破滅する。

それは今現在がセレネ様の断罪イベント真っ只中だからだ。


今の転落事故が切っ掛けとなりセレネ様の断罪がスタート。

まず、殿下が調べ上げたヒロインの受けてきた嫌がらせの証拠や証言を読み上げれられる。数ある嫌がらせのなか「やっていない」と主張する件もあるが殿下はその言葉を聞き入れず、全てセレネ様が主犯と決めつけ糾弾するのだ。

そして、セレネ様との婚約を破棄しラメール家に重い罰を与えヒロインに婚約を申し込む。


このイベントは見ていて辛かったなぁ。

セレネ様が「何故信じてはくれないのですか?」って殿下に訴える所や「長年ご一緒してきましたのに私の事を見ていてはくれなかったのですね」って涙を堪えながら伝えるシーンは、フルボイスでダイレクトに感情を揺さぶってくれて号泣した覚えがある。

そのイベントが今まさに始まろうとしているなんて…あ、ダメだ。思い出しただけで涙が出てきた。


「セレネがそんなにも貴女を追い詰めていたのですね。」


声がしてふと頭を上げる。

そう言えば、ふらついた時に殿下が支えていてくれたんだっけ。転生していた事実にセレネ様との感動のご対面ですっかり忘れていたよ。


心配そうな顔付きからスッと怒りの表情に変えてセレネ様を見据える。

ついに殿下が断罪を初めてしまうのか。


殿下に支えられながらゲーム通りの台詞のやり取りをぼうっと眺める。

このイベントが始まってしまうと、セレネ様の破滅は回避できない。プレイ中、いつ選択股が出てくるのだろう?と思いながら進めていたら長い断罪が終わり殿下から婚約を申し込まれた所で場面転換し、次のシーンでは殿下の婚約者となっていてビックリしたのを今でも覚えている。



「何故信じてはくれないのですか?」



スピーカー越しではない生身の声が耳に届く。



「他の者から、多くの証言が届いているのにまだ言うのか!」



殿下の言葉に傷つき表情を歪ませ、目には涙がうっすらと滲んでいたけど必死にこらえる姿は画面では見たこと無かった。



「私ではなく、他の者の言葉なら信じるのですね…」



ゲームでは聞いたことない台詞は悲しみで震えていて、その言葉が耳に届いたとき、私の中で何かがプツンと何かが切れた音がした。



支えてくれていた腕を押し退ける。

驚いた殿下の顔がちらっと見えたが気にも止めず、ズキッっと悲鳴をあげる足の痛みを無視して正面にいるセレネ様に向かって足を進める。


ゲームがなんだ!悪役令嬢がなんだ!

そんなの今は関係ない。ここは今生きてる現実なんだ!

私の大好きな一人の恋する乙女が傷ついているのに何もしないなんてありえない!


私は悪役令嬢の恋を応援するんだ!!!


ヒロインが悪役令嬢の為に頑張ります!

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