羽ばたく手紙
ー 君は何処でこの手紙を読んでいるだろうか ー
赤い夕日が海の彼方へ沈んで行く
彼との思い出が詰まった浜辺
秋に差し掛かる季節、肌寒い海風を感じ堤防へ座り込んで開く手紙
ー きっと君は思い出をなぞって居るだろうね ー
ー 初めて出会った裏山かな?共に歩いた海辺だろうか ー
正解を容易く当ててしまう手紙の主
そんな相手に口元が僅かに弧を描いてしまう
心と体がアンバランスな天秤に掛けられたように
ー 今君は泣いているだろうか?笑っているだろうか? ー
どちらもだよ
目には涙が溜まってる
口元は貴方らしい手紙に笑ってる
ー 君の事だきっと一人で読んでいるだろうね ー
ー 人に弱味を見せようとしないから ー
ー 誰よりも弱い心を持っているのに誰よりも強いから ー
簡単に当てないで欲しい
隠し事をしてもすぐに気づく貴方
私の心を見透かす貴方
嫌いでもあり、好きでもあった所
ー きっと怒っているだろうね何時ものように ー
ー それから、それから、きっと涙を堪えているのだろ ー
少し皺が出来た手紙
彼もきっとこの時涙した
私の涙が手紙に滴る
ー 泣かないでくれ、君は笑顔が一番似合う ー
無理を言わないで欲しい
笑えるわけがない
嬉しくても笑えない
そんな言葉狡すぎる
ー ごめん、意地悪だったね ー
ー 僕には言う資格がないよね ー
その通り
貴方には言う資格がない
だって貴方は…
ー 覚えているかな?僕達が始めて交わした約束を ー
勿論覚えてる
忘れるなんて出来る筈ない
ー 子供の戯れ言なんて言ったら君は怒るよね ー
ー あれは小さいながらに本気だった ー
知っている
貴方が冗談で言う筈ないから
あれからの貴方を見ているから
ー 今でも昨日の事のように思い出す ー
ー あの時の君の笑顔が忘れられない ー
あんな昔良く覚えてる
私なんてどんな顔してたか覚えてない
ただ嬉しかった事だけ
それだけは覚えてる
ー 約束守れずごめん ー
ー 頑張ったんだけど駄目だった ー
誰よりも知ってる
どんなに辛くても笑っていた貴方
私はずっと見てきたのだから
ー 強がって君には隠し通せていたかな? ー
ー きっとバレてたね ー
ー 君のあのぎこちない笑顔はきっとそういうこと ー
バレないと思ってたの?
見る度真っ赤に腫れた目をしてた
隠そうと笑う貴方だから
私は変に笑うしかなかったの
ー 日に日に大人びていく君に驚かされた ー
ー 傍にずっと居たいと思ってた ー
日に日にやつれる貴方に泣きそうになった
やっぱり嘘を言っていた
いつも忘れてと言ってたじゃない
ー もう涙は止まったかな? ー
止まるわけない
そういう所は何時も鈍感
ー 最後の約束覚えてる? ー
認めない
認めない
認めない
ー 僕が死んだら全て忘れる ー
認めない
認めない
認められる訳がない
ー あれは間違いだった ー
何を今更
ー 忘れて欲しくなんてない ー
ー ずっと君の心にありたい ー
また狡いこと言う
そんなのずっと昔からそうなのに
貴方を忘れるなんて出来ないのに
ー だから最後の約束を変えたい ー
良いよ
これっきりだもの
聞いてあげようじゃない
ー 幸せになった君を僕に見せてくれ ー
妬いても知らないよ
ううん、後悔させてやるんだから
ー 愛していたよずっと君を ー
私も愛していたわ…
数年後、一つの墓に手紙と共に飾られる写真
一組の夫婦と一人の男の子が仲睦まじく写る写真
墓に止まった白い鳩が空へと羽ばたいた