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第九話 真実と現実

僕は彼女が縛られている鉄柱まで来ていた。


だが、よく考えれば敵は3人、

もう1人いるはずだ、おそらくホテルで見たおじさんが…


「ヤベさん犬を!」

僕がそう叫ぶと、ヤベさん『ぐぁ〜』と呻きながら腹を押さえる見事な三文芝居をし、眉間にしわを寄せながら首を動かし周囲をさぐった。

側では自分より何倍も背の高い大男に向かってこれまでと同じように柴犬が懸命に吠えている。


僕もあたりを見回す、倉庫内に響き渡るヤベさんの呻き声と犬の吠える声、そのとき、ふと僕の5メートル後ろにうずくまっているおじさんの姿が現れた。


ヤベさんもそれに気づいたようでよろめきながら時折『ぐわぁ』『おぅ』などと言い同時に首を動かしたり、腹を押さえながらして徐々にうずくまっているおじさんに近づいていく、どう見てもふざけているヤベさんの後ろを柴犬は吠えながら一定の距離を保ちついて行く。


そしてうずくまるおじさんの背中にヤベさんが手を当てると一瞬でおじさんは消え、三文芝居が終わると犬は大人しくなり倉庫内は静寂に包まれた。


何故か得意げな顔のヤベさんをよそに、僕は彼女の縄を解こうとした。


だが縄はかなり頑丈に結ばれており、簡単には解けそうにない。

おまけに縄を解こうとすると僕の手が自然と彼女の体に触れ、どうにもやり難い。

それに気づいたのか彼女は、

「いいから、さっさと解きなさいよ」


いいならもう少し要領悪くやって触ろうかとも思ったが、どうにも手では解けそうになかったので僕は何故かじ〜っと犬と見つめ合いながら突っ立っているヤベさんに助けを求めた。


「何か縄を切る物ありませんか?」


ヤベさんは手の中の小さな箱を何度か触ったかと思うと、その中からペンのようなものを取り出し、僕に向かって投げてきた。


「そこの青いボタン押すとレーザーが出てくる、気をつけろ切れ味抜群だからな」


僕はそれをキャッチし、言われたと通りに青いボタンを押してみる。

なんともそれは超大作宇宙戦争映画に出てくる武器の小型版みたいなので、ペン先から赤い棒状の光が出てきた。


僕は彼女の背後にまわり慎重に縄の結び目に光線を当てた。すると彼女の体に絡み付いていた縄は一瞬で地面にハラリと落ちた。


「よかった」

僕は彼女の前に出てその顔を見ると呟いた。

だが、柱に寄りかかり座り込んでいる彼女は何となく悲しそうな顔をしていた。


そうか…目の前で彼女の家族が消えていったのだからそりゃそうなるよな…


「その…ごめん、でもあれ、吸い込まれて死ぬわけじゃなくて、中でも生きてられるらしくて…あの…」

それ以上言葉が出てこなかった。

相変わらず僕はなんて説明が下手なんだ…


そんな僕の様子を見ていた彼女は首を横に振り、

「大丈夫」と呟いた。


いつのまにか僕らの側に犬を抱きかかえたヤベさんがいた。

ヤベさんは犬を地面に下ろし彼女の側にしゃがみこむと何故か彼女の頭に手を置いた。

地面に下ろされた柴犬は逃げることなくヤベさんの足元で大人しく尻尾を振っている。


何をするのかと思っていたら、ヤベさんは彼女のつむじ付近に指をさし、

「ここだ」と僕の顔を見ながら言った。


一方彼女は自分の頭を触る男の顔を見てから、

「何でヤベヒロシ?」と僕のほうを見て呟いた。


何で彼がヤベヒロシの姿なのかという事はあとで説明すればいい今はとりあえず、

「ここって何ですか?」


僕がヤベさんにそう尋ねると、ヤベさんは僕が手に持っているペンを指でさしてから、その指を彼女のつむじに向けた。


まさかとは思うけど…


「何言ってるんですか?早く彼女の頭から爆弾取り除いて下さいよ」


だが、ヤベさんは表情を変えずに首を横に振り、

「それは出来ない……、彼女が死ぬ以外に爆弾を止める方法は無いんだ」


それを聞いた僕はヤベヒロシに飛びかかっていた。

「ふざけるな!もとは全部あんたのミスだろ!何で彼女が死ななきゃならないんだよ!何とかしろよ!」


「やめて…」


彼女の声で動作の止まった僕の左手はヤベヒロシの着ているシャツの襟元を掴み、右手は殴り

かかる準備をしていた。


「そんなことしても、何も変わらないでしょ…」



(続く)




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