第八話 ヤベさんVS透明人間
港に着き、目的の倉庫であろう建物にあっさり辿り着いた僕らだったが、その目の前には頑丈に鎖が巻きつけられたうえにしっかり鍵の掛かった巨大な鉄の扉が立ちはだかった。正面から中に入るのは無理なようだ。
僕らは別の入口を捜し、青々と生い茂る雑草を踏みながら倉庫側面へ進んだ。
そこにはさっきの頑丈な守りが嘘のような、役目を果たしていないガラスの無い窓がいくつかあった。
これなら重量級力士でなければ易々と中に入れそうだ。
「ヤベさんこっちです」
咄嗟にしゃがんだ僕は小声でヤベさんを呼び、鼻から上だけをそこから出し、中を覗いた。
いくつかの窓枠から射し込む光のおかげで倉庫全体を見渡すことが出来た。
しばらく使われていないのであろう倉庫内は錆びたドラム缶が詰まれていたり埃を被ったブルーシートが散乱してはいるが、そういった遺物は倉庫全体の1割程度で閑散としていた。
そして、そこにぽつんと立つ一本の鉄柱に縄で縛られ捕らわれている彼女がいた。
柱に縛られ立っている彼女は眠っているのか意識が無いようで首が垂れている。
「彼女いましたよ」
そう小声で言いヤベさんを見ると、ヤベさんは隣で同じように顔の半分だけを窓枠から出し彼女のいる方向を見ていた。
「お〜…意外にでかいな…」
何故かソレを強調するようにして縛られている彼女の胸を見て言ったのだろうけど…
こんなときにこの宇宙人は…
「ふざけないで下さい!で、どうすればいいんですか?なんか見えない奴らがいるんでしょ」
怒鳴りたい気持ちを抑え僕はひそひそ話を続けた。
これまでの話からすれば、彼女の家族の体を乗っ取り行動している透明になれる生き物が3匹いるはずだ。
だが倉庫内には彼女の姿しかない。相手の姿が見えないのでは僕にはどうしようも…
僕は、全部あんたのせいなんだから何とかしろという気持ちでヤベさんの顔をじっと見た。
すると僕の顔を見て急に立ち上がったヤベさんは長い足で窓枠を跨ぎ倉庫内に…って、大丈夫なのか?
何をするのかと思ったら、ヤベさんは倉庫内に響き渡るようなデカイ声で叫んだ、
「あ〜、お前ら〜この任務は間違いだ〜、もう帰るぞ〜出て来〜い」
そういえば奴らはヤベさんが地球での任務用に作り出した生命体だとか言ってたけど、こんな単純な事で解決するのか?
そのとき、どうやら今のデカイ声で目を覚ました彼女と僕は目が合った。
彼女は僕を見て驚いているようだ。
この状況でかなり高感度アップしただろう、あとはヤベさんが何とかしてくれれば、
「ったくご主人様がわざわざ迎えに来てやったのに、お〜」
とヤベさんがもう一度叫びだそうとしたときだった。
ヤベさんは突然呻き声をあげたかと思うと腹を押さえ床にうずくまった。
そこへ容赦なく襲い掛かる透明人間の攻撃、ヤベさんは蹴られているのか腹を守りながら丸くなって一定感覚で呻き声をあげている。
おいおい、どうすりゃいいんだ。
このまま助けに入ったところで僕も透明人間にボコボコにされるだけだ。
そうだ、漫画みたいに鼻血かなんかで透明人間の姿を見えるようにすれば…
そう思って周りを見渡してみたが、どうも使えそうなものは無い。
とそのとき、一匹の小さな柴犬がゆっくりとこちらへ近づいてきた。
すると、倉庫をねぐらにしていたのか、壁の小さな抜け穴を通って倉庫内へ入ってしまった。
何でこんなタイミングで帰宅するかな、奴ら犬には危害を加えないだろうな…
柴犬はトコトコ歩きながら倒れているヤベさんに近づいて行く、透明人間はその小さな存在にまだ気づいていないようだ。
ヤベさんはどうでもいいが、犬はどうにか助けたい、僕が迷っているとヤベさんが再び呻き声をあげた。
すると異変を感じたのか倒れてるヤベさんに向かい柴犬が激しく吼え出した。
次の瞬間、なんと透明人間から透明という言葉が取れ、ヤベさんの側に耳を押さえて辛そうな表情をしている彼女の弟と母親だろう二人の姿が現れた。
柴犬はまだ激しく吼えていて、現れた二人は耳を押さえたまましゃがみ込んでいる。
それなのにヤベさんはまだ頭を抱えて倒れていた。
「ヤベさんチャンスですよ!」
思わず僕はそう叫んだ。
僕の言葉を聞いたヤベさんは立ち上がり、周りを見渡す。そして服に付いた砂を払い…
「何やってるんですか!早くそいつらを!」
といいながら僕も窓を跨ぎ倉庫内へ入った。今なら彼女を救出できる。
ようやく事態を察したヤベさんは口から小型収納箱を取り出し、しゃがみ込んでいる男の背中にそれを当てると、男は一瞬で箱の中に吸い込まれた。
だが、そこで柴犬が吼えるのを止めてしまい女の姿が見えなくなった。
「ヤベさんもう一回呻いて!」
ん?という顔をしたヤベさんが理解して演技をしたのか、透明人間にまた殴られたのか、どちらかは定かではないが、再びヤベさんが腹を押さえ呻くと、柴犬が吠え出した。
そして再び姿を現した女も同じように箱の中に吸い込まれていった。
(続く)




