第六話 進展
オレンジ色のランプが4を示し、僕らは目的の階に着いた。
エレベーターを降り、この角の向こうが以前何度か利用したことのある漫画喫茶になっている。
と、ここで問題発生。
漫画喫茶は会員制なので初回利用時には入会手続きが必要だ。それには当然住所や身分証が必要になる。だが、隣のヤベさんは宇宙人なのだ、そのどちらも持っているわけが…いや仮に持っていてもそれは今の地球では通用しないだろう。
考えた末、ヤベさんにはちょっとの間、入り口に立っていてもらうことにした。
漫画喫茶の入り口付近は薄暗く、顔さえ隠していれば、仮に人が通ってもただの怪しい背の高い男で済むだろう。
「嫌だ。この中に興味がある」
今回も言うことを聞かない宇宙人…
「だったら、入り口から、また透視してればいいじゃないですか、イロイロ手続きが必要で面倒くさいことになるんですよ」
僕の説明を小刻みに首を立てに動かしながら聞いていたヤベさんは、
「大丈夫だ、俺には力がある!そんな手続き必要ない」
と言うと、僕を押しのけ中に入ってしまった。
あ〜あ、入っちゃったよ…
まあ宇宙人が大丈夫だと言ったし…
後を追い僕も店内へ、ヤベさんは入り口横のカウンター前に突っ立っていた。
僕はとりあえず自分の会員証をカウンターの若い女性店員に見せ、ヤベさんが何かするのを待った。
受け付けの店員は自分の仕事を進め、僕に利用コースなどを聞いてくる。
だがヤベさんは未だ突っ立ったまま何をしようとしているのかわからない。
そこで僕は、宇宙人に軽く肘鉄をくらわせた。
どうやら宇宙人にも意味は伝わったようで。ヤベさんは喋りだした。
「あ、あの…」
そう言って女性店員の注意をひきつけたヤベさんは何をするかと思ったら、かけていたサングラスをサッと外し、
「どうも、ヤベ・ヒロシです、すみません急いでいるので、彼と同じ部屋に…」
そう渋い声で言ってのけた。
何が大丈夫だよ…
なんとも危なっかしい作戦だったが、受付の女性店員がヤベヒロシファンだったおかげで、僕は店員と握手を終えた宇宙人を連れ、指定された個室へ向かった。
個室といってもちゃんとした部屋ではなく、周りから見えないよう薄い壁で仕切られているだけのスペースだが、そこには椅子が二つあり僕はパソコンの前に座ると携帯会社のHPへ飛び、GPSサービスのログインページを捜した。
実際自分の携帯にGPS機能がついていても携帯は常に自分で持ち歩いているのだから、自分で位置を調べる必要などなく、買ったその日に自宅周辺の地図とその中の赤い点を自宅のパソコン画面上で見て以来それをやっていなかったこともあって、ログインページに辿り着いてからパスワードを思い出すのに少し時間が掛かった。
ようやくログインし位置の検索をかける。
30秒後、画面が切り替わる、ビンゴ!やはり携帯はホテルからかなり離れた場所にある。
どうやらそこは港の倉庫らしい、携帯を誰かが拾ったということはなさそうだ…
おそらくそこに彼女と宇宙人たちがいるのだろう…
僕は画面の地図をメモした。
そういえば調べている間、やけに大人しいのでその存在を忘れかけていたが、ヤベさんは…
「ちょっともう止めてよ〜」
「いいじゃないか」
「あんっ、ダメってば〜」
隣の部屋から、ピンク色の声が…
何でこんな昼間から世の中にはピンクが溢れているのか…
そりゃぁ、どうりで大人しいはずだ。
どうせまた壁の向こうのカップルをじ〜っと眺めていたのだろう。
「だぁ〜っ」
それまで静かだったヤベさんが突然大きな叫び声をあげた。
ちょっとヤベさんそんな興奮しないで下さいよ…と僕が小声で言おうとしたときだった。
「エネルギーが切れた」
「え?」
「だから、エネルギーが…」
「どういうことですか?」
「もう力が使えねえ!」
「ということは…」
「せっかくいいとこだったのに…」
…
「ちょっと待って下さいよ…もう力が使えないって、何もできないんですか?」
「ああ、もう空も飛べないし、口からビームは出ないし、超能力はいっさい使えない」
口からビームって…そんなこと出来たんですか…
「で、何とかならないんですか?」
「無理だ。エネルギーを回復するには一旦地球を離れないと、だが、それだと戻ってくる前に地球はドカンだ」
「でも、じゃあどうやって宇宙人をやっつけるんですか…」
そういえば、何も考えてなかったけど宇宙人を見つけたらヤベさんがどうにかしてくれると思ってた…
「大丈夫だ、奴らはそんなに凶暴ではない…」
「よくわからないけど、どうにかしてくれるんですね」
「まぁ、何とかなるだろう、場所がわかったなら連れてってくれ」
「はぁ…」
どうなることやら…
こうして僕とヤベさんは店を離れ、港を目指しタクシーに乗り込んだ。
タクシーが走り出し、しばらくして僕はヤベさんに話しかけた。
「あの、教えてくれませんか、彼女をさらった宇宙人、奴ら何者なんです」
よく考えたら、この変な会話は運転手にも聞こえているのだけど、僕は気にしなかった。
「ああ言ってなかったな、あいつらと、人間の体で成長する爆弾な……、俺が作ったんだよ」
ヤベさんは真顔でそう言った。
だけど何を言ってるのか、僕にはすぐ理解できなかった。
(続く)
この辺で中盤です。
どうも3話までは読んで頂けてるようなのですが、
4話以降の読者数が伸びていませんw
3話に問題があるようで;;




