第五話 ヤベさん2
僕とその隣を歩く宇宙人はホテル街を離れ、駅までもう少しという場所まできていた。
だが、この先は通勤通学時間ではないにせよ昼前の駅前通りなのだ。この道に比べたら遥かに人通りもあるだろう。
なにせ僕の後ろの宇宙人は身長190センチの人気俳優ヤベ・ヒロシの姿をしているのだ。
サングラスをしてはいるが、このままでは目立ちすぎる……、そこで僕は立ち止まって提案した。
「あの〜、その姿…変えられないんですか?」
するとヤベさんは鋭い目で僕を睨んだ。
「なんだ、この姿のどこが不満なんだ…」
「いえ、不満というかあなたデカイうえに有名人に変身してるんですよ!目立つんですよ」
ヤベさんは相変わらず僕を睨んでいる。
「俺はこのダンディな顔が気に入った。絶対に変わらんぞ、あと俺のことはヤベさんと呼べ、名前の響きも気に入った」
僕は宇宙人にも伝わるヤベ・ヒロシのダンディっぷりを恨んだ。
「じゃあせめて小さくなったり、なんか出来ないんですか?」
「小さくか」
そう呟くとヤベさんは、口からサイコロのような小さい金属の箱を一つ自分の手の平に吐き出した。
ヤベさんはそれを指でつまむと僕の顔に近づけてきた。なので僕は思わず仰け反った。
「何だ、汚くないぞ、人間の格好はしているが、中の構造まで真似したわけじゃない」
「そう言われても…」
僕は嫌々その物体を手に取った、確かにベタついてはいなかった。
「なんですかこれ?」
「そいつの中には俺の宇宙船が入っている」
「こんな小さな箱にですか?」
「おう、そこのボタンと画面で物の出し入れが出来るんだ」
「じゃあ、もしかして人も入れたり?」
「おう、この中でちゃんと生活できるようになってる」
「じゃあ、ヤベさん、しばらく入っていてください」
ヤベさんは再び僕を睨みつけ言った。
「断る!まだお前を100パーセント信頼した訳ではない!」
「なら、やっぱり姿を!」
「それも、断る!」
ヤベさんは僕からサイコロを取り返すと、自分の口の中に飲み込むというか、放り込んだ。
あぁ何なんだこの偏屈な宇宙人は…
僕は諦めて、駅前へ出た。
結局、変なサングラスも多少効果があったようで、僕の心配をよそに何事もなく目的のビルに辿り着くことができ、僕らは4階の漫画喫茶を目指し、今にも止まりそうなおんぼろエレベーターに乗り込んだのだが…
(続)
5話では、話の辻褄合わせというか、
それをやる必要があると思っていたのですが、
5話を書いている途中でそれを4話に組み込む必要があると感じ、急遽4話を書き足しました。
4話の最後にこれを足そうかなとも思いましたが、
それにしては長いのでこれを5話にします;;




