夜のツバメ
春の夜にあの人を想って。
人気の少ない夜の商店街を急ぎ足で歩いていた。
駅からの帰り道。いつも通る道。
疲れた顔のサラリーマン。
赤い顔して笑う若者。
いつもの見慣れた風景の中、ふいに目の前を何かが、ついと横切った。
慌てて、目で後を追いかける。
小さな黒い影は、素早くはためいて、靴屋の白い看板に止まった。
まじまじとよく見ると、それは、黒い燕尾服を着たツバメだ。
看板のはるか上に止まっているツバメは、気忙しげにきょろきょろと辺りを見回している。
その愛くるしい仕草に疲弊した心がほどけてゆく。
「今年も来たか。」
移ろう季節の中、遠くなった君を思い出すことも少なくなって、今年も又、春が来た。
ーねぇ、君。今どうしてる?ー
毎年やってくるツバメを見て、喚起された小品です。
春の夜に、誰かを想って。
ご一読ありがとうございました。
作者 石田 幸