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1.転生


何かに引きずられる感覚に、意識が浮上する。


先ず、薄い雲が流れる真っ青な空が見えた。

呆然とその風景を眺めていると、現実が僕を襲ってきた。

ソレは縛り上げた僕の両足を、必死な様子でどこかに引きずっていた。

しばらく僕は、ソレが何なのか理解できなかった。それはヒト型であり、170cmはある僕の腰丈ぐらいの身長で、鼻がおとぎ話に出てくる魔女のようにとがっていて、肌が緑色で・・・・まるで、『ゴブリン』とでもいうべきモノだった。

そこまで漠然と広がっていく考えの中で、僕の思考は状況を理解した。


「!?」


思考が一気に混乱し叫びかけたが、こもった声が漏れるだけだった。

どうやら僕の口には麻縄のようなもので轡が噛まされているようなことを混乱した思考の中でうっすらと理解する。


「ゲギャ!」


仮称ゴブリンが先程漏れた声を聞き取ったらしく、熱の混じったねっとりとした視線をこちらに向ける。

そこで混乱が覚め、はっきりと理解する。これは獲物を見る目だ、と。

コイツは僕を喰らおうとしている。

今この状況に置いて、侮ってはいけない存在だと肌で感じた。

少なくとも、コイツには獲物の手足を縛り、仲間を呼ばせない対策をする程度の知能がある。

今もボロボロの腰布に挟み込んでいる、錆の見えるナイフもいざとなれば僕に向くのだろう。

そして、コイツの向かっている先には仲間がいる、と考えるべきだ。


であるならば、今、ここで、この状況を切り抜けなければ、僕にこの先生き延びる可能性は待っていない。


思考を現状の把握から、危機の回避に転換する。

とりあえず、相手は凶器足りうるものを持っており、どういう思考回路をしているのかわからない今、迂闊に行動するのも危険だろう。迅速に、慎重に、現状手元にある物でこの場を切り抜けなければいけない。


「ッ!」


引きずられる背中に硬い物が当たり、痛みが走る。もしかしたら、と思いそれが手元に来るまで大人しく引きずられる。

そして、手元に土の硬さとは明らかに違うそれが来る。ばれないように、それをつかみ取る。

無事、手に取ることでそれがなんであるか確信する。チラリと視線をそちらに向けると、僕の手に握られていたそれは普段なら目にも留めない存在。

石ころだ。

多少、いやかなり心もとないが、手札は多いに越したことはない。

幸い、ある程度の大きさはある。


問題はこれをどう使うか、だ。

近くの草むらに投げてコイツの気を引くか、あるいは、コイツに殴りつけるのに使うか。今はこのくらいしか考え付かない。前者はこの限られた稼働範囲の縛られた腕で、草むらに命中させることができるのかの賭けになる。後者はひるませることができるかだ。これも、賭けだ。前者でも後者でも成功したあとはナイフを奪って、殺すしかない。

殺生はしたことはないが、この際迷っている暇はない、純化なんてもの二度と味わいたくない!

僕は、やるぞ・・・・やるしか、ないんだ・・・・・っ!




「はぁ・・・はぁ・・・・何とか、逃げ切った・・・」


血まみれになった服を引きずながら歩く。手にはナイフをかろうじて握っている状況だ。手の震えが止まらない。


「クソ、クソッ・・・何で止まらないんだ・・・・・っ!」


脱出には成功した。ゴブリンも、殺した。殺せたはずだ。

奪ったナイフをアイツの首に突き刺した後は、急いで足の縄を切って逃げ出した。

しばらく走った後は、足でナイフを固定して何とか手の縄も切った。口を縛っていた縄は簡単に解くことができた。

抵抗された時に爪で引っかかれた腕が腫れあがっている。

何か細菌でも持っていたのか?ひどく痛む。


「・・・・・・・・僕は、賭けに勝ったんだよ、な・・・運がいいな・・・」


しかし、焦って近くにあった森の中に飛び込んでしまったせいで出口がわからない。そもそも、ここがどういう場所なのかも理解できていない。先程から判断するべき基準がゴブリン以外に見当たらなかった。

そこらに生えている植物を見ればいいだろうとも思ったが、いかんせん素人目では何が違うのか判断できそうもなかった。

走り続けたことによる疲れからか、ついには足にも震えが伝達してきた。


「少し、休もう・・・」


近くに生えている木の根元に座り込む。もう立っていられそうになかった。


「あ、れ・・・・?おかしいな、いし、きが・・・・」


危機を切り抜けた安心からか、気が抜け意識がフワリと飛んでいく感覚を最後に、視界が暗転していく・・・・




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