1話 踏切にいた少女。
陽の葬儀が終わり、俺は、いつも通りに高校へ通っていた。
「あ、彼方ー」
「ん?ああ、楓坂か。」
「おはよ。そういえば、陽ちゃんだっけ?お前の幼馴染」
「そうだよ。今頃、天国にでも行ってる頃か…」
「そうだな~、ま、元気出せ!」
「痛って…やめろ…」
親友にバシバシと背中を叩かれる。
それにしても、こいつは元気だなぁ…
そのまま今日も、放課後まで気だるげな授業を受けた。
はぁ…今日もやっと終わった…帰れる。
よし。帰ろう。
そう決意した時、手を掴まれた。
「ゆーきーむーらー?まさか、帰る気じゃないわよね?」
「くそ…見つかったか…桜」
「行くわよ。幽霊部員。」
そのまま桜に連れていかれ、結局帰るのは、18時。
なんということだ…運悪く予約が出来なかったアニメを見逃してしまったではないか…
世界は残酷だなぁ…
そう考えながら、ため息をつき、暗くなり始めた帰り道を歩いていると、一人の女の子が踏切にいた。
鳴り出す踏切警報機の警告音。
おいおいおいおい
あれ、やばいだろ、絶対。
気がついた時には、体が動いていた。
「おい!!立て!」
『え…』
「え、じゃねぇ!死にてーのか!クソっ」
『わっ』
小学生くらいの女の子を抱え上げ、急いで踏切を出た。
あと5秒、動くのが遅かったら、間違いなく死んでいた気がする。
ゆっくりと女の子を下ろし、力が抜け、その場にしゃがみ込んだ。
「はぁ…お前、あんなとこで何してたんだ?」
まさか、死のうとしてたなんて言い出さねーよな…?
微かな不安に似たようなモノが脳裏をよぎった。
『私、気がついたらあそこにいて…』
ひとまず自殺ではないよう。
ならば、この女の子は、どうしたというのだろうか。
それから、長話になるようで、一旦うちに来ることになった。
「ん。そこに座って待ってて。」
『う、うん。お兄ちゃん誰?』
「雪村彼方。」
『じゃあ、彼方って呼んでもいい?』
無駄にキラキラした目で見つめられ、断る気力もなく、OKした。
キッチンで、2人分のココアを入れて、持っていく。
女の子に手渡した。
そういえば、名前…
「お前、名前は?」
『遥だよ!!彼方!』
「遥か…じゃ、お前のこと、はるって呼んでい?」
慣れない笑顔を必死に作り、聞いた途端、遥は、必死に『それだけは、ダメ。絶対許さないから!』と止めてきた。
先日亡くなった幼馴染の名前も、陽だったから、なんとなく雰囲気似てるし、いいと思ったんだが。
「じゃ、はるか。でいいか?」
『いいよ!彼方!』
「おう」
それからココアを飲みながら、遥から色々なことを聞いた。
まず、遥は、気がついたら、あの踏切にいて、体が思うように動かなかったこと。
次に名前以外は、自分のことがどこの子だとか、わからないということ。
いわゆる記憶喪失ということなのだろうか。
そして、俺が警察に遥の捜索願いが出てないか問い合せたところ、全くなし。
普通、この時間に小学生が帰ってこないとなると、捜索願いくらいは、出すはず。
それが出ていないとなると、残される可能性は…
" 捨て子 "
「お前さ」
『遥』
「遥は、捨てられたわけ?」
『失礼な!これだけは、言えるもん。捨てられたんじゃない』
「じゃ、なんで?」
『私にもわからないの。でも、これ…』
そう言いながら、おずおずと遥が服のポケットから1枚の紙を取り出した。
そこに書いてあったことを見た瞬間、遥という人間が現世に居ていい存在ではないということを、直感した。
" この子を拾ってくださった方へ
この子のおねがいを100コ、叶えてあげてください。
そうすれば、この子は、無事帰れます。
小学校に通わせる必要は、ありません。
あなたは、ただ、この子のおねがいを叶えてあげてください。
よろしくお願いします。
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【人物紹介】
雪村 彼方
・青花高校1年。
・一人暮らしの普通の男子高校生。
・写真部の幽霊部員。
麻倉 陽
・死亡。
・彼方の幼馴染。
楓坂 遥斗
・青花高校1年。
・彼方の中学からの親友。
桜 愛菜美
・青花高校1年。
・彼方の友達であり、世話係。
・写真部。
遥
・踏切にいた謎多き女の子。
・彼方に助けてもらい、命は助かった。
・現世の人間ではない。