正義のダークヒーロー
近頃、毎晩同じ夢を見る。松明が照らす薄暗い地下室に僕らは居た。猿轡をされた涙目の青年が椅子に縛り付けられていた。フードを被った男が言った。「お前達が生き残るためには、こいつを殺さなければいけない。」そう言って武器が置いてある壁を指した。
「僕は、この後どうしたんだっけ、、、。」目が覚めるといつもこの後の記憶がない。後味の悪い夢だ。
コンコン。「アーベル様、朝食をお持ちしました。」
メイドが入って来た。「いつも、ありがとう。」「失礼します。」メイドがベットサイドテーブルに朝食を置いて帰って行った。早速、大好物の紅茶を手に取り飲もうとしたら、いきなりテニスボールが飛んできてお気に入りの王室御用達のプレミアムレアなシリアルナンバー入りのティーカップ割れた。「痛っ⁉︎熱っ⁉︎」「間に合って良かった!さすが、坊ちゃん育ちは警戒心がなさすぎだな。」「フィン⁉︎いつからそこに居たの?」このいきなりテニスボールを投げてきた男は数ヶ月前、僕が、行き倒れになっていたところを介抱して、意気投合して仲良くなった友人だ。僕以外の人には警戒して、なかなか姿を現さない。さらにいつも猫が好きなのか猫の仮面をつけている。なかなかのグットルッキングガイなのに勿体無いといつも思う。「また、毒盛られてるぞ!俺に出会う前までどうやって生き長らえてたのか?」「僕の身体は小さい頃から両親に毒に耐性を持つように訓練されたから平気なんだ。」貴族の爵位を金で買った成金商人の両親が将来、息子の暗殺を懸念しての事だ。小さい頃は何度も熱を出して死にかけて恨んだが今では亡き両親には感謝している。「ところで、このティーカップで家一つ買える値段なんだが、どう弁償してくれる??」友人でも損得勘定の理念を貫き通すのが優秀な商人である。敬愛する両親が残してくれた言葉のうちの一つだ。「えっ、、命を助けてやったのに、こんな展開あり?」「頼んでない。それに、僕はこの程度の毒では死なない。」「さすが、ちまたで有名な商人兼老若男女関係なく冷酷非道な取り立て屋。ぐむむむ、今は持ち合わせがない、後払いで頼むよ!!」「前から疑問に思ってたけどフィンって何やってる人?」「俺は正義のダークヒーローだ。」「 なんだそりゃ笑」
僕は得体の知れない、憎めない愉快なこの男を何故よく調べなかったのか後に後悔することになる。
僕は、合理的である故に、悪徳と言われた商人の両親を非常に尊敬していて、その教えを崇拝し、実行していった。しかし、少しやりすごすぎてしまったようだ。僕はただ両親が長年夢見てた貴族の頂点の王族と結婚し、家を繁栄させていくという夢を叶えたかっただけだった。僕は婚約者に暗殺された。刺客はフィンだった。「姫、何故?僕と婚約した事で財政難だった王室が潤い、何不自由なく贅沢に暮らしていけたのに。そして、フィン、、君は一体なにもの、なんだ、、、。」
「さようなら、アーベル。わたくし、愛してる人が居るの。わたくしの愛する国民を不幸にするあなたをわたくしは許せない。」
「俺は前にも言っただろ、、正義のダークヒーローだって、、。」フィンは普段の調子で僕の質問に応えた。フィンにしては珍しく普段付けている猫の仮面を外していた。
ああ、思い出した。あの夢の続きは、フィンによく似た、そして兄によく似た男の子は壁に掛けてあった斧で青年の首を跳ねたんだ。その後、僕は気絶したんだ、、。僕は昔、兄と一緒に誘拐され、なぜか僕だけ誘拐犯に返された事があったんだっけ、、。「兄さん、、良かった!生きていたんだ。」遠のく意識の中で密かに安堵して、涙が溢れた。そして、僕は無になった。「むっ?何か聞こえた気がする。」「気のせいよ。さあフィン行きましょう!この世にはこびる悪党どもに制裁を!。」「俺は正義のダークヒーロー、世の中の平和の為には何でも殺りましょう!なんなりとご命令を!。」
-FIN-