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それを運命とは言いません  作者: 穂波幸保
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入学式 8


さっきも言ったように、私はその勉強を手伝わされた。

しかも、妹の中学2年の問題ではなく、私の3年の問題をである。


実香みかに話を持ちかけられた時は、母親からそのゲームの話は聞かされていたので、私は渋い顔をした。何故なら、3年の問題なら私に解けということで、それならゲームをする意味がないからだ。

しかし、妹もシークレットストーリーがどうしても見たいらしく、受験前の姉の勉強の手助けをするのだと言い張った。

結果、折れた私が自分の勉強時間にリビングで妹の横に座ってわからないところを教えて解かせ、私が復習するという形で落ち着いた。


前世で妹がいたのは覚えていた。

しかし、こんなことをしていたのは今まで思い出さなかった。

いや、思い出したくなかったのだろう。

何故なら。

何故なら。。



なんでそのゲームの世界に、私が?

しかも、悪役として。



ベッドで布団を被せられた状態で目覚めた私は、驚愕の事実に思わず顔を手で覆った。

そう。私は、今現在、何故かそのゲームの世界の中にいる。

しかも、主人公のそら 光希みつきをいじめる悪役として。

妹のゲームになど一切興味がなかった私だが、何気なく見た説明書に書かれていた名前と、よく画面で見ていたキャラクターの見た目も同じなのでそうだろう。

流石に、髪色はゲームの奇抜な色とは違い、みんなほぼ黒色だが。


本当に夢なら覚めてほしい。

何で私が可愛い女の子をいじめるキャラクターなんだ。冗談じゃない。

そう思うが、幼少期から今まで育った過程を振り返れば、私は夢ではなくこの世界に存在しているのだろう。

なら、ゲームと同様に主人公の光希をいじめるのが、私の存在意義なのだろうか。

しかし、そんなことをしたいなどと私は思わない。

それに、そもそも私の中にゲームのキャラクターとしての土ヶつちがや はるかの性質が存在しているかどうかも怪しい。

生まれ変わってから、女の子をいじめて遊ぶような趣味は持ち合わせていない。

それとも、光希が登場したことにより、私自身が変わってしまうのだろうか?


うーーん。


天井を見ながら悶々としていると、ベッドの周りを覆っていたカーテンが少し開き、眼鏡をかけ白衣を着た2、30代の女性がこちらを見た。


「あら、起きてるじゃない。」

驚いたように声をかけられ、私は申し訳なさそうな顔をして答えた。

「すいません。今、目が覚めました。」

たぶんここは保健室で、そこの先生だろう。

そう思いながらも上半身を起こすと、先生はカーテンを一気に開けながら向こうを向いて誰かに声をかけた。

「眠り姫が目覚めたわよー。」

その言葉を聞いてすぐ、衝立の向こうからはじめ兄が心配そうな顔をしてこちらにやって来た。

「遥、大丈夫か!?」

「うん、大丈夫だよ。」

一兄に心配はかけられない。

そう思い、あまり精神的には大丈夫ではないが、私は無理やり笑って答えた。

すると、一兄は私の様子に少しほっとした表情を見せた後、珍しく矢継ぎ早に喋りだす。

「目眩や吐き気はないか?あっ、念のため体温と心拍数も・・」

だが、それをすぐ横にいた先生が一兄の肩に手を置き、睨んで遮った。

「土ヶ谷くん、私の仕事を奪うつもり?」

「・・・」

その一睨みに一兄が怯んで黙り混むと、先生は肩から手を離してこちらを向いてにっこりと笑い、問い掛けた。

「何処か、体の不調はあるかしら?」

「い、いえ。今のところは大丈夫です。」

一兄からすると珍しいその光景に驚きつつ、体調はいたって大丈夫なので先生の顔を見てすぐに答えた。

「日頃から貧血を起こしやすいとか、昨日寝不足だったとか。倒れることは頻繁にあるかしら?」

「貧血になったことはないんですが、もしかしたら昨日寝不足だったかもしれません。」

次の先生の問いに、倒れた原因は記憶に関連してだろうが、そんなことは言えないので昨日少し寝不足だったことを伝える。

その言葉に、少し一兄の顔が強張った気がしたが、一兄の方へ顔は向けずに先生を見つめた。

すると、先生は少し眉間にシワを寄せながら、ボードを手に内容を記入した。

「それが原因かもしれないわね。寝不足は美容にも大敵よ。入学式前日で緊張しちゃったのかしら?」

冗談目かしていう先生に、私は笑いながらも答える。

「はい。代表の挨拶もあったので、なかなか寝付けなくって。」

その言葉に、先生は驚いた顔をして私を見た。

「土ヶ谷くんの妹さんも、頭がいいのね。でも、こんな勉強バカにはなっちゃ駄目よ。」

先生は、そう言って笑いながら一兄を見る。

すると、それに少しムッとした顔をして、今度は一兄が先生を見た。

「勉強バカってなんですか。」

「だってバカじゃない。入学してから、全教科オール満点更新中って。今は生徒会もしてるのに。先生達、あなたの点数をどうやって下げるかって、いつも躍起になってるわよ。」

そんな先生の言葉に、一兄はあきれたような顔をしてため息をついた。

「そんなことをするより、もっと他の生徒のために頑張ってほしいですね。」

「ものは試しにって一問だけ難易度をあげて出しても、あなたがすんなり答えてしまったからよ。だから、あなた達の学年は必ず先生からの嫌がらせが一問入ってるって他の子たちが嘆いてたわよ。」

二人のやり取りを聞いて、私は家では聞いたことのない一兄らしい内容に、ぷっと噴き出してしまった。

そんな私に先生は気付き、こちらを見て笑った。

「よかった。表情が明るくなってきたわね。」

「え?」

「あなた、どこか元気がなさそうだったから。」

「!」

私が首をかしげると、返ってきた答えにびっくりしてしまった。

さっきの問題を思い出さないようにしつつ、表情に気を付けていたのだが、顔に出ていたのだろうか。

焦る私に、先生は私の返答などは求めず、にこにこしながら話を続けた。

「どんなことでも、相談したいときはいつでも訪ねてちょうだいね。ちょっとした悩みや、人生相談までなんでも受け付けるわよ。もちろん、お兄さんに内緒で恋の相談も。」

先生は、最後にそう締め括り、私にウインクをとばした。

それを見て、あきれた視線のまま一兄が言う。

「俺の前で言ったら、内緒じゃないでしょう。」

その言葉に、先生はけろっとした顔で答える。

「あら、わざと言ってるのよ。あなた、勉強バカだけじゃなくて妹バカだったみたいだし。」

「は?」

「だって、妹さんが倒れたって知って仕事そっちのけでこっちに来たじゃない。そのあと仕事ですぐに連れてかれたけど、使い物にならないからってまた戻されて。妹さんが目覚めてからも慌ててたし、余程溺愛してると見たわよ。」

にまにました顔で先生が返すと、一兄は動揺を見せるのかと思いきや、逆に当たり前のような顔をして答えた。

「家族の心配をするのは当然です。仕事が手につかなかったのは、生徒会の皆には申し訳なかったとは思いますけどね。」

一兄ではなくて私が恥ずかしくて赤面してしまう会話に、今度は先生が一兄に呆れたような視線を向けた。

「それだけ清々しく言われると、いじれないわね。年頃なんだから、その妹バカっぷりは彼女に嫌われないぐらいにしなさいよ。」

そんな忠告にも、一兄は強かった。

「彼女が出来たら、考えますよ。」



次の投稿が来月できるかなど不明なので、とりあえず載せておきます。

こんなお茶目な先生、いたら楽しいだろうなと思いつつ書いてました。

たぶん、また再登場します。

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