隼の過去編:友だち 3
「隼。お父さんがなんでこんなに怒っているか、わかってるよね?」
「・・・・・。」
「いつものように、体が少しでもおかしかったら、学校の先生でも誰でもいいから言ってねって、お父さん言ったよね?」
「・・・・・・。」
「確かに、入学式を楽しみにしていたのはわかるよ?でもね、病院に運ばれて矢尾先生に今回は危険だったって言われたんだ。」
「・・・・・・・。」
「もうっ、隼っ!こっち向いて、返事してよーーーっ。」
「父さん、落ち着いて。」
怒りながらも急に泣き出したお父さんに、お姉ちゃんが声をかける。
それでも、僕はそっぽを向いて返事はしない。
だって、もう嫌になった。
入学式の日、僕は式が始まる前に教室で喘息と熱で倒れて救急車で運ばれた。
体が弱い
小さい頃から、そのせいでいろんなことを我慢したり頑張ったり。
そんな僕に、願い事をひとつぐらい神様が叶えてくれたっていいじゃないか。
・・・なのに、一度も叶ったことなんてないんだ。
今日は体調がよくなったから、お父さんがお姉ちゃんを連れて会いに来てくれた。
でも、来たときにお父さんの顔を見て、僕が怒られるのはすぐにわかった。
でも、僕は謝らないと決めてたから、そっぽを向いたらお父さんが泣き出して・・。
あのあと、お父さんはお姉ちゃんと一緒に病室の外に出ていって、今は僕一人だ。
だから、僕はさっきのことを考えてた。
お父さんがあんな風に泣くなんて、見たことなかった。
やっぱり、謝った方がいいのかな・・・?
でも、だめだ。謝ったら、今度から言うことをちゃんと聞かないといけない。
そんなことを考えてたら、病室のドアが急に開いて、僕はびっくりしてドアの方を見た。
そうしたら、なぜかお姉ちゃんだけ病室に入ってきた。
だから、僕は慌ててまた窓の方を向いた。
お姉ちゃんの様子は見えないけど、お姉ちゃんはこっちに歩いてきてそばの椅子に座ったみたいだった。
そして、僕に言った。
「隼。父さんは当分戻ってこないから、こっち向いても大丈夫だよ。」
「・・・・・。」
それでも、僕は黙って動かずにいた。
「・・・。首、そんな窓の方ばっかり向いて、痛いでしょ?父さんが来たら、また向こうを向いても良いから。」
「・・・・・・。」
そう言われて、僕はしぶしぶ黙ったままゆっくり正面を向いた。
そして、ちらりとお姉ちゃんを見る。
お姉ちゃんは、さっきお父さんが怒ったり泣いたりしてたのに普通にしてて、僕と目が合うとにっこり笑った。
「っ!」
僕はびっくりして、またそっぽを向いてしまった。
でも、お姉ちゃんはもうそのことは言わずに、話し出した。
「残念だったね、入学式。」
「・・・・。」
「父さん、感情的になっちゃったけど、心配しすぎただけだから。だから、気にしないで。」
そう言って、本当に普通に話しているお姉ちゃんに、僕はおそるおそる顔を戻して訊いてみた。
「・・・お姉ちゃんは、怒らないの?」
その言葉に、お姉ちゃんは笑う。
「怒らないよ。無茶しすぎたのは駄目だけど、隼はそれでも入学式に出たかったんでしょう?それに、そのことはまた父さんが言うだろうし。」
「・・・・。」
確かに、言いそうだ。
「だから、私は頑張って苦しいのを我慢した隼に、なにか一つ願い事を叶えてあげるよ。」




