芦の祭 21
・・・・・・・・・・。
会場は、静まり返っていた。
観客が原作を知っていたら、なんとなく結末はわかるだろうが、改めて思う。
壮絶すぎる・・!
このあと、幽霊の父王が出て締め括るのだが、正直心身ともに疲れたので早く終わってほしいのが本音だ。
隼へも、謝らないといけないし。
コツ、コツ、コツ
そんな中、父王の靴音が響きだした。
・・ッ、キャーーーッ
すると、何故か女性陣から急に絶叫が起こった。
「!!?」
もう、今日はなん・・・母さん!!!?
私は、横を通りすぎていく父王の格好をした自分の母親を、唖然として見つめた。
「・・人は、単純な生き物だ。
あの人が好きだ!
そう思い生まれた感情は、始めはとてもシンプルで単純だ。
それが複雑になるのは、人の持つ感情が他人の刺激で変わっていくからだろう。
正義感で動いていたはずのハムレットは、恋人や母の死で最後は復讐に心が染め上がり。
己の欲で悪に手を染めたクローディアスは、最後に夢は潰ついえるが、幸せだったと振り返って死んでいく。
人は、良くも悪くも他人と共存し、感化されて生きる生き物だ。
・・さて!この後は、皆さんがお待ちかねの投票が始まります。
一か遥か、もう誰にするか決めたかな?
今回の劇が、みなさんの良い感化となってくれたなら、二人の母親としては感無量です。
ちなみに、私の票には二人を称え、土ケ谷兄妹と書こうと思っています。
親バカと言われるでしょうが、愛する我が子たちは頑張ったからね。
では、以上で『ハムレット~改訂版~』を閉幕いたします。
残りわずかですが、みなさん、芦の祭を存分に楽しんでください。
私も、文芸部で新作が楽しみな今年の本を買って、各お店も廻って楽しませてもらいます。
観劇いただき、ありがとうございました!」
ワーーッ、パチパチパチパチ
こうして、色んな出来事があったが、舞台は無事に終わりを迎えた。
そして、肝心の投票の結果だが、何故か大半が土ヶ谷親子と書かれ、残りの票は土ヶ谷兄妹となっていた。
この結果に、水無月先輩と花園さんでまた喧嘩になるかとヒヤリとしたが、不可侵協定のような状態になったようだ。
それと同時に、二人はすっかり母さんのファンにもなっていた。
このことで、私は声を大にして言いたい。
「もう、勝手にしてくれ!!」
そういえば、なぜあの場に母さんと隼がいたかだが。
始まりは、隼の思い付きからだったそうだ。
隼は、芦の祭のことで私の様子がおかしいことには、前々から気付いていたらしい。
そんな時に、隼の定期検診の話がやって来た。
隼は今は元気だが、小さい頃によく病院でお世話になっていたこともあって、毎年念のためにと病院で定期検診を受けている。
父さんが検診日をどの日にするか隼に訊くと、有無を言わさず芦の祭の日を指定したらしい・・・。
そして、隼は父さんに「病院が終わってから芦の祭に行きたいんだ。でも、行って二人を驚かせたいから、秘密にしておいて。」と言って口止めし、迎えた当日。
急遽、父さんが仕事でどうしても付き添いができなくなったそうだ。
しかし、隼は一人でも大丈夫だと言って病院に行こうとしたところ、たまたま母さんが休みで家に帰って来た。
そこで父さんは、それならばと母さんに隼の付き添いを頼んだそうだ。
話を聞いた母さんは、面白そうだと喜んで、文化祭なら仕事の参考になるし撮影もしようとビデオカメラを持ち出したら・・・あんなことに。
でも、私は言いたい。
ビデオの撮影許可をもらいに行くだけで、舞台に出ることになるってどういうこと?
母さんにあてられて舞台に出てほしいとお願いする水無月先輩たちや、面白がって承諾する母さんや、じゃあ僕もと出てしまう隼も・・・、想像できるけど!!
釈然としないのは、何故だろう。
芦の祭の出来事の全てが、必然からか、偶然だったのか、それはわからない。
でも、文芸部の冊子が奇跡的に完売したのは、母さんの差し金だったと断言しておこう。
良かったですね、火口先生。
年末と言っていて、本当にギリギリになるとは。申し訳ない(汗)
念願のシーンが書けるのはいいんですが、こんな感じでいいのだろうかとうんうん唸っていたら時間が経ち。
本職(?)の仕事納めが終わり、あとは小説を載せて年越しだと頑張りました。
楽しんでいただけたならば幸いです。
芦の祭が終わり、この次は過去編に入ります。
朧気なものを形にしていく作業から始まるので、いつも通り亀足になるかと思います。
来年も、こんな感じで申し訳ないですが、よろしくお願いします!
みなさま、よいお年を!




