芦の祭 20
ザワザワ
客席がザワついているが、あれは誰だなどと騒がれているのだろう。
私の側にしゃがみこんだ隼は、一兄を見上げて言った。
「学校って、無理矢理入れられた寄宿学校のこと?そんな所に行かされようが、兄さんの危機に僕は真っ先に駆けつけるよ。」
隼は、劇中でハムレットの弟役を演じて言っているのだろうが、ハムレットに弟はいない設定のはずだし、その時代にたぶん寄宿学校は存在しないはず。
そして、何故着てる服が演劇部の衣装・・・いや、言いたいのはそんなことじゃなくて。
本当に、なんでいるのっ!!?
「・・・・・・・。」
きっと一兄も私と一緒でパニックから立ち直れず、黙ったままだ。
「でも、僕は間に合わなかった。兄さんが殺されてしまうなんて!」
その間にも隼の演技は続き、悲しさからうちひしがれたように私の体を抱き込んだ。
すると、小声で声が聞こえてきた。
「びっくりした?」
隼が、私に対して小声で呟く。
「隼、」
「でも、僕もびっくりしたんだ。」
私が言おうとすると、隼が話を遮った。
そして、隼は私を抱き込んだ姿勢を解いて、上半身をゆっくり起き上がらせた。
そこで、私は隼の顔を見ようと、隼の動作を利用して少し上半身を傾けて隼の顔を見上げた。
すると、隼は観客にわからないよう下を向いたまま、私と目を合わせ。
にっこり笑った。
ビクッ
条件反射で、私の体が勝手に震えて固まる。
「こんな話、聞いてなかったから。」
「・・・・・・・・。」
久々に、かなり怒ってらっしゃる(涙)
「クローディアス、覚悟はできているよね。」
固まる私をよそに、隼は私からすぐに目をそらして一兄を見上げた。
「・・なんの覚悟だ?」
「それは、ねえ。・・・殺される覚悟さ!」
そう言ったかと思うと、そばに落ちていた私の剣を瞬時に拾い上げ、ハムレット弟はクローディアスに斬りかかった。
「っ!・・うっ。」
ガキンッ、カランッ
クローディアスの呻き声と共に、どさりと倒れこむ音が聞こえる。
たぶんクローディアスは咄嗟に防いだが、ハムレット弟の力は強いし防ぎきれなかったのだろう。
気になるから見たいのだが、ハムレットは死人で動けないため、音や声で判断するしかない。
「卑怯だぞっ!」
「何が卑怯?おまえの方が、よっぽど卑怯じゃないか。僕を兄さんから引き離して、除け者にして。家族はおまえのせいで、みーんな死んじゃった。」
・・何故だろう。劇中の言葉のはずなのに、私の心に刺さってくる。
隼が、今回のことを一兄のせいと思っていたらどうしよう!?
この後すぐに謝って、説明しないと。
「でも、それが仇となったね。幸せは手に入らず、最後は僕に殺されて。おまえは一人、孤独に死んでいくんだ。」
「・・・・・・。だが、一時でも幸せだった。」
クローディアスがぽつりと呟くと、人が倒れる音が聞こえた。
「今度は、おまえが一人だな・・・・。」
その言葉を最後に、クローディアスは死へと旅立った。
そして、壇上に立っているのはハムレット弟のみになった。
「・・・・・一人?おまえがっ!僕を、一人にしたんだろうがっ!!?」
ガランッ
たぶん剣を床に大きく叩きつけたのだろう。
怒りと悲しみの入り交じった悲痛な声で、ハムレット弟が叫ぶ。
これは、私の勝った場合のシナリオと同じ展開だ。
「孤独に一人で生きていけって?ふざけるなっ!それならいっそ・・・・うっ。」
ハムレット弟は、ガードルートと同じ毒をあおった。
「死を選ぶ。」
最後の言葉を残し、どさりと倒れこむ音が聞こえてきた。




