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それを運命とは言いません  作者: 穂波幸保
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芦の祭 16


「副かいちょー!こっちは完了しました!」

「こっちも大丈夫ですー!」

美果みか美樹みき姉妹による客席全体の確認が終わり、俺は腕を組み大仰に頷いた。

「よし、完了だな。三村みむらシスターズ、水無月みなづきに伝えてきてくれ。」

「「アイアイサー!」」

俺が指示を出すと、二人はビシッと綺麗に揃った敬礼をして舞台裏へ続く扉へ向かっていった。

三村姉妹は、俺のおどけにすぐ対応してくれるから内心嬉しかったりする。

他のメンバーだと、こうはいかない。


俺は二人を見送り、自分の立っている入り口付近から改めて会場全体を見渡した。

「すげぇな。」

体育館内は、パイプ椅子がところ狭しと並べられ、保護者席以外は満席だ。

立ち見席は設けなかったので、客席以外に立っているのは自分とビデオ班だけだからか、余計に圧巻だ。


俺は体育館の入り口を閉め、側で待機するビデオ班に声をかける。

田所たどころ、セッティングはばっちりか?」

東雲しののめ先輩!はい、ばっちりです。」

一年の眼鏡をかけた小柄な演劇部員である田所は、やる気満々で答えた。

今回は劇を見られない生徒のために、客席の一番後ろでビデオカメラを使って劇全体を撮影する・・・のだが。

「あれ?山城やましろ、なんでおまえにもビデオカメラがあんの?」

ビデオ班はこの二人だが、三脚に設置されたビデオカメラはひとつだけだったはずだ。

それが何故か、三脚共々横並びでひとつ増えていた。

この質問に、山城はどや顔で答える。

「お願いされました!」

「誰に?」

山城。お願いだから、もっと詳しく話してくれ。

そんな俺の思いを察して、田所は笑いながら話してくれた。

「山城の友達が、お願いしてましたよ。でも、すごいんです!相手はサングラスをかけてたんですけど、見た感じかっこ良いし英語で話したりなんかして。しかも、山城もペラペラ英語で返すし。」

「田所。一応俺、ハーフだから。」

「え?おまえ、ハーフなの?」

話が脇道にそれそうなので、俺は慌てて話に割ってはいる。

「ちょっとおまえら、ストップストップ。山城、頼まれたのはいいが、ちゃんと許可もらわないと女帝が黙っちゃいないぞ。」

女帝なんて水無月が聞いたら怒りそうだが、実質そうなので俺は山城に伝える。

すると、田所が代わりに答えた。

「あ、それなら僕もそう思って山城に言いました。」

「お、偉いな田所。じゃあ、許可をもらったんだな。」

それなら安心か、とほっとするが、違う答えが返ってくる。

「いや、それが。自分で許可をもらってくるって、そいつが同じサングラスをかけたスーツの女性とさっき一緒に舞台裏に向かったんですが、まだ帰ってきていないんです。」

「そういえば、確かにちょっと遅いな。あいつ、何してんだろ?」

田所は心配げな顔をして話すのに対し、山城は不思議そうな顔で話す。

「・・・・・。」

俺も、田所と同じでなんだか嫌な予感しかしないんだが。


ビーッ

「ただいまより、演劇部と一年D組による舞台『ハムレット~改訂版~』を開演いたします。それにともない・・・」

そんな時、舞台開演の放送が流れ出した。


「わかった!俺がちょっと見てくるわ。おまえら、きっちりビデオ2台分録っとけよ。行ってくる。」

「了解っす!」

「お気をつけて!」

俺は山城と田所に見送られ、舞台裏へと歩きだした。


生徒会の後輩たちが、副会長孝行で舞台をゆっくり見てくださいと言ってくれていたのだが、どうやら叶いそうもないらしい。

「せめて、最後の剣劇だけは見させてくれよ。」

俺は、楽しみにしていたシーンだけでも見れるようにと祈りを呟いた。



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