芦の祭 12
「3年B組、たこ八先生いかがっすかー。」
「バドミントン部、羽クレープ売ってまーす!」
ワイワイガヤガヤ
あの和やかな準備前からハードなスポ根ならぬ芦の根期間に突入し。
私たちは、とうとう芦の祭当日を迎えておりました。
「で?結局、隼くんには伝えたの?」
絢は、珍しく髪を高く結い上げてツインテールにした、黒いワンピースに白エプロンのメイド服姿の格好で、私に前の時と同じ事を訊いてきた。
それに対し、私はセミロングの髪をひとつに結び、シルバーがかったジュストコールとキュロット(両方の縁には白色のバラの蔓など刺繍要り)に真珠色のジレには大輪のグレーのバラが描かれている、原作とは時代錯誤な18世紀スタイルで、うなだれて答える。
「・・・伝えられてません。」
「え!?遥さん、伝えてないの?」
麗くんは普通の学生服姿で、読んでいた本から顔を上げ、驚いた声をあげた。
「でしょうね。」
絢は察していたようで、呆れたように返した。
私と絢は今、麗くんが入部した文芸部の模擬店にお邪魔して、3人で椅子に座ってしゃべっている。
文芸部は、芦の祭で年に一度発行される部誌を販売していた。
しかし、たまにしか人が買いに来ないらしく、店番は基本一人体制で、今は麗くんが任されている。
言葉の通り、私たちが来てからも買いに来た人はまだおらず。
教室に来るのは、同じ教室内で展示されている書道部の作品を見に来る人ぐらいだ。
そのためか、室内では外の喧騒と隔離されたような静かな時間が流れていた。
「あの隼くんだものね。どう反応するか、未知数だわ。」
「そうなんだよね。」
絢の言葉に、私も同意する。
何故か一兄を時折ライバル視する隼に、今回のことを伝えたらどんな反応をするのかわからず。。
一兄には私から隼に伝えると言って、とりあえず家族内には私はクラスで劇をするとは伝えた。
だが、それから詳細を言おう言おうと思いつつ、忙しいのも相まって、言えずに今日の日を迎えてしまったのが事の次第です。
「でも、流石に伝えていないのは不味いんじゃ・・。」
麗くんの言葉に、私も頷く。
「心配してくれてありがとう、麗くん。だから、今日が終わったら、謝ってちゃんと伝える予定はしてる。」
私の元気玉を集めないといけないけれど。
何か要求されそうで、怖いけれど。
なんとかなると、信じて・・・いる!
「まあ逆に考えれば、事後報告なら何もできないからいいんじゃない?よかったわね、今日が平日で。」
「「・・・・・・・・・」」
何がよかったのか、それってどういう意味なのか。
私と麗くんは、絶句して絢を見た。
「水沢くん!売り上げの方は、順調ですか?」
そんな気まずい沈黙のなか、調度いいところに火口先生が教室に入ってきた。
「・・それが、僕が入ってからはまだ誰も。」
麗くんも、火口先生が来て場の雰囲気が変わったことにほっとした様子で、でも本は売れていないので苦笑いしてそう伝えると、火口先生は肩を落とした。
「そうですか。やっぱり、今年も売れ残っちゃいますかね・・・。」
火口先生は、文芸部の顧問をしている。
文芸部の先輩方がやめた方がと止めても、火口先生が売れると期待していつも多めに刷ってしまうらしい。
そして、毎年同じように売れ残って落ち込むらしいのだが、先生自身も執筆が好きで載せたりもしていて、文芸部に対する思いが熱い先生だ。
私は、火口先生を慰めようと声をかける。
「本は、好き嫌いがありますから。私は本が好きですし、先生の作品も好きなので、あとで買いますよ。私の家族も先生の作品は好きなので、頑張って下さい。」
「ほ、本当ですか!!?土ケ谷さん!!!」
「!!?・・・はい。」
私が伝えると、火口先生の表情が絶望一色から喜色満面に変わり、気が付けば至近距離にいるので、びっくりしながらも頷く。
「僕も、先生の小説好きですよ。特に、岡っ引 六郎シリーズ。」
麗くんも、一緒になって火口先生に励ましの言葉を伝えてくれる。
「み、水沢くんも・・・!!僕、頑張りますね!完売できるように!!」
「・・む」「しっ」
ガッツポーズをとる火口先生に対し、無理と呟きそうになった絢を、私は口を塞いで阻止した。




