芦の祭 10
「・・・絢ちゃんの見解だと、私がオフィーリア役に合ってるから決まったってことだよね。それは嬉しいことかもしれないけど、やっぱり私はまだ演じるのが怖いな。遥ちゃんは、今回のことはどう思ってるの?」
光希は、そう言って真摯な目で私を見た。
「・・・・・・。」
私は、どう伝えればいいのかなと考えながら、正直な気持ちを話し出した。
「始めは、江藤先生への理不尽さや怒りでいっぱいで、演劇部との劇も、やってやればいいんでしょ!!?って気持ちでいっぱいだったんだけど。今は、違うかな。」
「今は、どう違うの?」
光希の質問に、理由を答えるのが照れくさくなり、視線を逸らし頬をかいて答える。
「一兄が、劇に出るのを楽しみにしてるみたいで。」
「土ヶ谷先輩?」
コンコン
光希の言葉と被るように、ドアの外からノックが聞こえてきた。
「遥。おやつを持ってきたんだが、入ってもいいか?」
一兄の声である。
「いいよ!どうぞ」
私が声をかけてドアを開けると、ちょうど今話していた一兄がお盆を持って入ってきた。
「苺のシフォンケーキを作ったから、よかったら食べてくれ。」
「「「「・・ありがとうございます!」」」」
一兄の言葉に、4人が一斉にお礼をのべた。
「やった!苺のシフォンケーキだって!」
「さすが一先輩、女心がわかってますね。」
沙耶ちゃんは嬉しそうに声をあげ、万里花は一兄にそう言いつつも目はケーキに釘付けだ。
お盆の上には、5人分のお皿が並べられ、カットされたピンク色のシフォンケーキがホイップと一緒に載っている。
「うわぁー!これを土ヶ谷先輩が作ったんですか!?お店のケーキみたい・・・。」
家の中に漂いだした甘いにおいを光希が不思議がっていたので説明したのだが、実際に作られたケーキを見て、さらに驚いた様子だ。
「一兄、いつもありがとう。」
私は、一兄にお礼を言って、ケーキをみんなに配っていく。
「いや、俺が食べたくて作ってるんだから気にしないでくれ。」
一兄は笑いながらそう言ったあと、光希の顔を見た。
「空。さっき挨拶の時に言い忘れてたんだが、みんなと同じように、俺のことは一先輩か一さんと呼んでくれ。空も、下の名前で呼んで大丈夫か?」
「・・・っ!は、はいっ!」
光希は、見ていたケーキから顔を上げて、慌てて答えた。
その光希の様子に、絢は笑う。
「光希、始めはそう言われて緊張するけど、慣れが肝心だから。」
「・・・うん、わかった。一先輩だね、一先輩。」
光希は、練習で名前を繰り返し呟いた。
「やっぱり、一さん呼びは定着しないね。」
先輩呼びをする光希を見て私が言うと、ケーキを手にとって食べ始めた絢が答える。
「まあ、普通はそうよね。」
「絢ちゃんは、なんで一さん呼びなの?」
各々ケーキを食べ始めたので、光希もケーキを手に取りながら質問すると、絢はこう答えた。
「遥のお兄さん。」
「え?」
「一さんを、遥の前でずっと遥のお兄さんって呼んでたのよ。それに慣れたあとで下の名前でって言われたから、そのままさん付けで一さん。」
「そうだったんだ。」
光希は、納得して頷いた。
「こんなことになるなら、慣れてなくても先輩呼びするんだったわ。」
絢の悔しそうな言葉に、沙耶ちゃんは笑う。
「絢ちゃんと遥ちゃんは仲良くなったの、一年生からだもんね。」
6月の満月をストロベリームーンと呼ぶ話を聞いたとき、書いていたものを載せなくては!と思ってから、日数が経ってしまい。。
ちなみに、我が家では満月の時は爛々と赤ではなく白く輝いて見えていました。
欠けてきた頃に赤く見えたので、これが!と思って内心満足して見ていました(笑)




