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それを運命とは言いません  作者: 穂波幸保
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芦の祭 9


「それで?この主人公ハムレットと恋人のオフィーリアを、はるか光希みつきで演じるって?」

「うん」

C組で配られたあらすじを読んだあやの言葉に、私は頷く。

「相対する悪役のクローディアスと王妃のガートルードは、はじめ先輩と三年の寿ことぶき先輩がするの?」

続けて沙耶さやちゃんがそう言うと、光希が叫んだ。

「そう!そうなんだよ、沙耶ちゃん!私・・、どうしたらいいんだろう!!?」

そう言って手で顔を覆った光希に、私は背中を擦り、絢と沙耶ちゃんと万里花まりかは気の毒そうな眼差しを光希に送った。


今日は土曜日。

急遽決まった配役に戸惑う光希を励ますため、今日はみんなで集まろうと、私の部屋で絢と沙耶ちゃんと万里花を誘って女子会を開いていた。


「遥、あなた光希にまで不運を移してどうするの?可哀想じゃない。」

「・・・・・。いやいや、絢さん。不運を移したって。」

絢の言葉に私は待ったをかけるが、絢は言葉を続ける。

「だってそうじゃない。入学式に倒れるし、江藤えとう先生のクラスになるし、今回も騒動に巻き込まれて。何かに取り憑かれているんじゃない?」

「・・・・・・。」

取り憑かれているとすればゲームになのだろうが、まさかこんなことにまでなると誰が想像できただろう。


「絢ちゃん、遥ちゃんが悪い訳じゃないからね。光希ちゃんは、C組だけの時もヒロインに決まっていたもんね?」

そう言ってフォローしてくれたのは、沙耶ちゃんこと、小道こみち沙耶だ。

沙耶ちゃんは、髪を二つ結びにしていて、身長が153センチと私たちの中で一番小柄。見た目は、妹系で可愛らしい。

しかし、今年小学生になる弟の弓人ゆみとくんの子育てを手伝っていたためか、話しだすとしっかりもののお姉ちゃんである。

そんな沙耶ちゃんの言葉に、光希は頷く。

「うん。その時は遥ちゃんやみんなと一緒に頑張ろうと思えたんだけど、今度は演劇部の人たちとの共演で、クラスでは私と遥ちゃんだけになっちゃったし。」

あれから、花園はなぞのさんが出演予定だったC組の子達に確認したところ、みんな辞退してしまったのだそうだ。

それはそうだろう。日々練習している演劇部と一緒に素人が出ようとなると、どうしても萎縮して辞退してしまうだろう。


「・・思ったんだけど、なんで光希もわざわざ指名されたんだい?」

万里花の疑問に、私は答える。

「ハムレットとクローディアス、それぞれのカップルを学年ずつに分けたかったらしいんだけど、そこで光希が水無月みなづき先輩のお眼鏡にかなったみたいで・・。」

「土ヶつちがや先輩をどう思うか訊かれて、遥ちゃんと顔が似てますねって答えただけなんだけどな。」

あの集まりで、私が十哉とおやに一兄のことを訊いている間に、光希は体育館で水無月先輩に声をかけられてそんなやり取りがあったらしい。

私はそれだけのやりとりで水無月先輩に光希が気に入られた理由がわからなかったが、絢は納得したように言った。


「無害と認定されたんでしょうね。」

「・・・?」

「絢ちゃん、無害ってどういうこと?」

私は首をかしげ、光希もわからないようで絢に意味を訊いた。

「友達である遥を基準にして言ってるでしょ?普通は、そう訊かれたら一さんを基準に格好いいとか答えるもの。一さんを異性としてじゃなくて、遥の兄として見ているなら無害と思ったんでしょうね。」

「!!?」

絢の言葉に、私は衝撃を受けた。

そんな判断基準でヒロインを選んでいいのだろうか?

「でも、それが理由なら、演劇部でも寿先輩みたいに大丈夫な人もいそうだけどな。」

沙耶ちゃんの言葉に、クラスメイトから聞いた話を思い返した。

寿先輩は、演技をするのが好きなだけで、演じる相手のことは全く気にならないらしい。

この間も、新入生に向けて部活紹介で行われた寸劇で、ソース顔なイケメンの新井あらい先輩とまるで恋人のように演じていたが、終わった瞬間にまるで何事もなかったかのようにけろりとしていた。

美人なため、噂では部活内でも片想いの男子生徒が多くいるらしいが、誰とも付き合う気はないのだそう。

そんな演技が好きで割りきれる人なら、一緒に演じても心配はないだろう。

沙耶ちゃんの言葉に、絢も同意で頷いた。


「確かに寿先輩みたいな人もいるでしょうけど、光希の顔も気に入ったんじゃない?」

「「「「顔?」」」」

その解答には、みんなで揃って声をあげた。

「前に、水無月先輩が劇の話で山城やましろくんを持ち出したって話したけど。演劇部は、みんなが憧れるような見映えを演技より重要視してるんですって。光希は、水無月先輩の希望に沿っていて、見た目もヒロインにぴったりだから選ばれたんじゃない?・・・まあ、私の見解だけどね。」

そう言って、絢は締めくくった。



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