芦の祭 2
「はいはーい!俺が呼びました。」
一兄の後ろから、 そばでやり取りを聞いていた副会長の東雲先輩が、気軽に手をあげた。
「・・・おまえか、龍生。」
一兄は、絢の時とは違い、やや怒気を含んだ声で東雲先輩を見た。
「ちょっ、そんな睨むなって。俺も、遥ちゃんを呼んでも、あれは無理なのはわかってるって。」
東雲先輩はそう言って、向こうで未だ演説という名の戦いを繰り広げる二人を見て答える。
「じゃあ、なんでわざわざ呼んだんだ。」
一兄が、そう言って理由を訊く。
私も気になり東雲先輩を見つめると、東雲先輩は私をちらりと見てこう言った。
「だって、こうでもしないと遥ちゃんに会わせてもらえないだろ。」
「私に?」
まさかの理由に、私は声をあげてしまった。
「俺から教室にでも会いに行ったら、おまえ絶対怒るの目に見えてるし。」
愚痴のようにぼやく東雲先輩に、絢は言葉を返す。
「東雲先輩。今でも、十分一さん怒ってますが。」
「水沢ちゃん、違うのよ。これはまだマシなほう。俺がわざわざ一の知らないとこで会いに行こうものなら・・っ!」
東雲先輩が、絢の質問に勢いよく答えだしたが、話している最中に言葉が止まった。
「・・それで、龍生?わざわざ遥に会おうとした理由を訊いてもいいか?」
私がびっくりするぐらい、機嫌が悪い一兄が東雲先輩に質問をした。
「あーっ、悪かったよ。・・・挨拶したかったんだよ、挨拶。」
「挨拶を、ですか?」
私がそう返すと、東雲先輩は、私の前にやって来た。
「遥ちゃん、挨拶が遅くなって悪かったんだけど、家族共々いつもお世話になってます。東雲龍生です。」
そう言って、会釈をしてくれる。
「!、こちらこそ、一兄がよく先輩のお家にお邪魔しているそうで。いつもお世話になってます。妹の遥です。」
私も、慌てて会釈を返す。
すると、東雲先輩は微笑んだ。
「いや、母さんが一を気に入って家に呼んでるだけだから、気にしないで。この前はプリン、ありがとね。一と一緒に作ってくれたんだって?とってもおいしかったよ。」
その言葉に、私はにこりと笑った。
「私は少し手伝っただけなんですが、喜んでもらえてよかったです。一兄のプリンは、絶品なので。」
「ああ、あの幻のプリンね。」
私の言葉に、絢がポツリと呟く。
「幻って?」
万里花がその言葉に聞き返すと、絢は答えた。
「一さんのお菓子はどれも美味しいけど、プリンは格別なの。でも、たまに気が向いたときにしか作ってくれないから。」
「ああ、だから幻のプリン。」
万里花は納得して頷いた。
「確かに、あれは格別だったけど。一、水沢ちゃんたちはおまえのお菓子をよく食べてて、俺が食べてないのはなんで?」
東雲先輩が不思議そうな顔で当たり前のようにそう訊くと、一兄はもう怒っておらず、呆れた顔でため息をついた。
「この間まで、校内でのお菓子は持ち込み禁止だっただろうが。」
「そりゃそうだけどさ。」
「・・絢たちは、遥が家に呼ぶから時々振る舞ってるだけだ。それに、龍生。おまえ、俺のお菓子をよく食べてるぞ。」
「へ?」
ぽかんとする東雲先輩に、私が伝える。
「先輩。先輩のお家に一兄が持っていってるお菓子は、毎回一兄の手作りです。」
「はぁぁ!!?ケーキなんかもあったぞ。」
私に対しても、たぶん驚きすぎて素で返してしまっている東雲先輩に、私は苦笑しながら返事を返す。
「それも、手作りですね。」
私の言葉に、絢は深く頷いて答える。
「お菓子も、オールマイティよね。一さん。」
万里花も、頷きながら答える。
「女の子の胃袋を、がっちり掴んでるからね。」
他愛もないお話で全然進まず、申し訳ない。
あいさつするのが好きな子たちなんです。
特に東雲さん、家元のお坊ちゃんだからそのあたりはきっちり躾けられてる感じです。
その辺りも触れて載せたかったんですが、今度載せるお話は、さくっとストーリーを進めていきます。
が、今回はここまでで。
文化祭の話が始まったので、期間をそんなに空けずに載せることを目標に、少しずつ載せる感じで頑張っていければなと思います。




