一の過去編:プリン 11
「・・どうしたんだ、みんな。不味かったか?」
俺も一緒に口に含んだが、いつも通りに美味しいと思ったのだが。甘すぎただろうか?
「・・美味しい。」
「え?」
宮沢がポツリと呟き、久々にしゃべったので聞き間違えかと思い聞き返すが、返事はない。
「宮沢がしゃべった!・・じゃない。むちゃくちゃ美味しいです、会長!!」
相原も宮沢のことで同じように反応するが、話題はすぐプリンに変わり、興奮したように俺に向かってしゃべる。
「美果ちゃん。なんなんでしょう、この味に舌触り。」
「しっとりして甘さ控えめと思いきや、ちゃんとしたプリンの甘さを兼ね備えて・・魅惑のプリンです。ね、美樹ちゃん。」
三村姉妹はうっとりした顔をして、あらぬ方向を向いている。
「一!おまえ、またこれ妹ちゃんのだろう!!くっ、いいよな。お菓子を作ってくれる優しい妹がいて。愛兎なんて、全くその正反対だぞ。」
龍生にも妹がいるのだが、兄妹でよく兄弟喧嘩をするような仲らしい。
この前俺が遥の作ったクッキーを食べていたのが羨ましかったらしく、文句を言っていた。
また同じように言い始めた龍生に、俺は返す。
「いや、ちが・・」
「えっ。これ、あの会長の妹さんが作ったんですか?」
・・返そうとするも、相原に遮られてしまった。
そして、テンポよく会話は続いていく。
「すごいです!首席入学のうえに、こんなお菓子も作れちゃうなんて!!」
「これはもう、生徒会に入ってもらうしかないですね!」
三村姉妹が目をギラつかせて言う。
「二人とも。勧誘はしてもいいが、あくまで本人の希望でだからな・・?」
生徒会は、学校に慣れてきた秋頃に1年の募集を行う。
こちらから勧誘することもあるが、基本本人が希望し選考される。
この二人の勢いだと、勧誘してそのままの勢いで入れかねないので念のため伝えておく。
「「わかってますよ、会長!」」
「・・・・。」
しかし、二人に満面の笑みでそう返されたので、たぶん伝わっていないだろう。
・・仕方ないので、先程言おうとしていたことを俺は言葉にした。
「あと、遥もお菓子作りは好きだが、今回のプリンは俺が作ったからな。」
「「・・・・・・へ?」」
俺の言葉を聞いた直後、三村姉妹の顔が固まったが、俺はそのことに気付かず話し続ける。
「遥も途中から手伝ってくれたが、このプリンは俺のレシピで作って・・」
「ちょっ!ちょっと待て待て!!」
話してる最中に慌てたように龍生が遮るので、俺は話すのをやめて龍生を見た。
「なんなんだ、龍生。急に。」
見ると、龍生は何故かそわそわと落ち着きのない様子で、俺に話しかける。
「一。俺の聞き間違いでなければ・・、だな。このプリンは、おまえが作ったのか?」
龍生の様子や質問をいぶかしく思いながら、俺は返事を返す。
「だから、俺のレシピで遥に手伝ってもらって俺が作ったが。普段は一人で作るんだが、今回は遥も手伝いたいと言って一緒に・・・。みんな、どうかしたのか?」
そこで、俺はやっと室内が異様な静けさに包まれた様子に気付いた。
そして、俺が声をかけたと同時に、室内にはみんなの絶叫が木霊したのだった。




