一の過去編:プリン 10
「入学式が終わったと思ったら文化祭って、本当人使いが荒いな。」
芦ケ谷高校、生徒会室。
入学式は無事終え、週明けの昼休み。
ご飯を持ち込んでの今後の打ち合わせも終盤に差し掛かり、副会長で高校三年の東雲龍生は急に文句を言い始めた。
龍生は、俺が高校一年生の時から何故か同類と言われてつるまれ、さらには生徒会まで一緒についてきた男である。
地毛が茶髪に近く、見た目はチャラそうな男に見えるが、学内成績は二位で書道家元の息子である。
「何言ってるんですか。秋にイベントを詰め込んだら受験に差し支えるだろうって、三年生のために学校が配慮してくれてるんです。文句言わずに仕事してください。」
「うわ、ひっどい相原。そんなんだから、未だに宮沢からOKもらえないんだぞ。」
「ほっといてくださいよ。私たちは私たちなりのペースで進んでるんです。」
「・・・」
龍生と話している会計で二年の相原歌音は、髪を二つに結わえた身長153センチの小柄な少女だ。
ズバズバ自分の言いたいことをいうタイプで、生徒会に入った理由も、宮沢と一緒にいたいから入りましたとはっきり宣言するような少女である。
その向かいには、その想い人である同じく会計で二年の宮沢蒼太がもくもくと黙ってご飯を食べていた。
宮沢は、・・・はっきり言って何を考えているかわからない。
身長185センチという長身で必要最低限しか喋らず、表情も変えず。いつも淡々と仕事をこなしている。
そんな宮沢にアタックする相原の姿は、生徒会では見慣れた光景である。
気が付くと、龍生と相原の会話はだいぶヒートアップし、そろそろ止めなければと俺が声かけようとすると、別のところから声がかかった。
「もーっ、二人ともストップです!」
「そうです。二人がしゃべると水と油なんですから、やめてください。」
二人を止めに入ったのは、書記で二年、そして双子でもある三村美果と美樹姉妹だ。
三村姉妹は同じ一卵性の綾と麗の双子とは少し違い、性格は似通り、ボーイッシュなショートカットに出で立ちも一緒。そして、基本一緒に行動する。
見分けるとなると、二人の時にやや身長が高いのが美樹というぐらいだ。
この5人と、生徒会長である俺を含めた6人が、今の生徒会メンバーである。
「美果と美樹、ありがとう。二人とも喧嘩はそれぐらいにして、みんな、決議をとるぞ。」
俺がそう声をかけると、ぴたっと会話が止んだ。
それを確認し、俺はみんなの顔を見渡してこう言った。
「じゃあ、渡した書類のスケジュール通りに進めるが、異論はないな。」
「「「「「はい。」」」」」
5人の声が重なり、俺はふっと笑った。
「なら、今日の集まりは以上だ。あと、この前の詫びでプリンを持ってきた。みんなで食べよう。」
「「プリン!!」」
「さすが、会長!気が利きますね。」
この前の入学式は色々と迷惑をかけたと思い、持ってきたのだ。
プリンという言葉に、女性陣は歓声をあげる。
「宮沢、甘いのは食べれるか?」
「(こくり)」
龍生は食べれるのは知っていたが、宮沢に確認して頷かれたのでほっとする。
「じゃあ、とってくる。」
俺が冷蔵庫に取りに行く最中、後ろでは会話が続いていく。
「土ケ谷会長が学校でお菓子を食べれるようにしてくれて、本当に有り難いよね。」
相原がそう言うと、三村姉妹が同意する。
「ほんとです。甘いお菓子が食べれないなんて、私たちには死活問題です。ね、美樹ちゃん。」
「そうです、そうです。お菓子がないと、頑張れません。」
3人が言っているのは、俺が去年選挙の演説の際に公約した、昼休みに学食でデザートの販売や購買でのお菓子販売。お菓子の持ち込みも可能にするというものだ。
それを今年から実現させ、生徒には喜ばれていた。
「良かったな、一。みんな、おまえと同意見で。」
すると、そんな女性陣の発言に、龍生がプリンの箱を持って戻ってきた俺を見てそう言うので、俺は笑った。
「そうだな。」
「会長、甘いものお好きなんですか?」
きょとんとして相原が問うと、何故か龍生が答える。
「一は、無類の甘いもの好きだからな。公約も、みんなのためと言いつつ、自分のためでもあるな。」
そうはっきり断言する龍生に、俺は人のことなのによくしゃべるなとやや呆れつつも答える。
「まあ、そういうことになるかな。龍生、回していってくれ。」
「はいよ。」
俺は龍生に声をかけてプリンとプラスチックのスプーンを一つずつ手渡すと、龍生は順序よくそれぞれの目の前に置いていった。
「全然知らなかったです。」
ビックリした様子で言う美樹に、俺は苦笑しながら答える。
「まあ、言って回るようなことでもないしな。あまり時間もないし、さあ食べてくれ。」
「いただきます!」
それぞれそう口々に言って、みんなスプーンを手に取り、口にいれた。
「「「「「!!」」」」」
すると、何故かみんな固まった。




