一の過去編:プリン 9
「ただいま!ごめんね、遅くなって。」
家の扉を開け、玄関の明かりをつけながら、父である春は家の中にいる子どもたちに声をかけた。
「ただいま。一 、遥。ごめん、二人で帰って来たから遅くなった。」
後ろで、母の華も一緒になって声をかける。
しかし、中から明かりは洩れているが、誰からも返事はなかった。
「・・・?眠っているのかな?」
「そうかもしれないね。もう7時は過ぎているし。」
二人は、靴を脱いで明かりの漏れるリビングの扉をそっと開けた。
「ただいま・・・あっ、やっぱり寝てるみたい。」
ソファーで眠ってる子どもたちを見つけ、春は小さい声で華に言う。
「めずらしいな。一が遥と一緒に寝るだなんて。」
華は、その光景に驚きの声をあげた。
「付いててあげてって、僕がお願いしたからね。華、僕は冷蔵庫にシュークリーム入れてくる。」
「ああ。」
華は、春がキッチンへ行くのを見送ったあと、子どもたちの方へ歩み寄った。
「そうだとしても、一緒に寝るだなんて一はしないからね。」
一が遥にやや距離を置いているのを知っている華は、そう言いながら寄り添って眠る二人を見下ろした。
「一はタオルケットを一緒に被ってないし。風邪を引くよ・・って、春さん、ちょっとこっち来て。」
華がそう声をかけるのと同時に、慌てたように春がリビングに戻ってきた。
「ねえ、華。冷蔵庫の中にプリンがある!あの子たち、作ってくれたの・・」
「それはあとで聞くから。とりあえず、二人を見て。」
「なになに、どうしたの?・・・って。遥、もしかして。」
春は言われるままに二人を見、遥の顔に残る涙のあとを見つけ、華の言いたいことにすぐに気づく。
華はその言葉に、辛そうに頷いた。
「ああ。またあの夢を見たみたいだね。」
「嘘。最近は見なくなって、落ち着いてきてたのに。」
春は、遥が嬉しそうに一緒に寝なくても夢を見なかったよと話していた顔が思い出されて、ショックを隠せない。
「・・・こればっかりは、私たちではどうにもできないからね。」
華も、やるせない気持ちでいっぱいだった。
春は、遥の頭をやさしく撫でて一を見た。
「じゃあ、一が寄り添って寝てるのは」
「一が落ち着かせてたんだろうね。」
「・・念のためと思ってお願いしたんだけど、本当になるなんて。」
「・・・」
二人としては、いつかは話そうと思ってはいたが、最悪の形で一は知ることになってしまった。
「・・・」
華は黙って一の顔をじっと見つめて考えたあと、春に声をかけた。
「春さん。ずっと理由をつけて引き伸ばしにしてきたけど、ちゃんと一にすべて伝えようか。」
今の一になら、ありのまま全てを伝えても大丈夫な気が、華にはしていた。
その言葉に、春は一の頭に優しく手を置いて頷いた。
「そうだね。もう、しっかり遥を守る騎士の顔つきだしね。」
ちゃんと謝って正直に伝えなくちゃね、と、春は華に笑いかけた。
とうとう三兄弟の両親の登場です。口調がまるっきり性別反対に見えるので、ご注意ください。
華さんは、春さんよりも年上です。馴れ初めの話も設定あるので書きたいところなんですが、書けるかどうか。。
だいぶ先にならないと無理な気がします。




