一の過去編:プリン 7
「スー・・・スー・・・」
あれから、俺は勉強を、遥は読書を再開したが、遥は疲れたのかいつの間にか眠っていた。
俺は、遥にタオルケットをかけて時計を見る。
時間は、6時を過ぎていた。
「父さん、遅いな。」
いつもは、病院に行ってもこの時間には帰ってきている。
一度連絡した方がいいかなと思いつつ、遥の寝顔を見つめて、俺は今日のことを振り返った。
遥の嬉しそうな顔に、はしゃいだ顔に、驚いた顔。
遥は、確かに俺よりも頭がいいのかもしれない。
けれど、遥はそのことで偉ぶる様子はなく、無邪気に兄さんと呼んで接してくれていた。
そのことに、俺は今まで気が付いていなかった。
何故、遥が普通の小学一年生より頭がいいのか。
その理由を、俺は知らない。
でも、知らなくても可愛い妹に変わりはないのだと、俺は今日思いを新たにした。
そのことを考えると、父さんと交わした遥を一人にしないという約束も、ただ普通に妹を一人にするなという理由だったのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺が遥の頭を撫でようとしたちょうどその時、遥が突然話し出した。
「駄目・・・、そっちへ行っちゃ、駄目。」
「!!」
俺は、始め頭を撫でるのを嫌がられたのだと思い、慌てて手を引っ込めた。
しかし、遥をよく見ると、目は閉じたままで眉間にシワが寄っている。
そっちへ行っちゃ駄目と言っているし、どうやら怖い夢を見ているようだ。
「遥、遥。」
俺は遥を軽く揺さぶって起こそうとするが、目を覚ましそうにない。
「・・・嫌!嫌!」
そんな中、遥はどんどん様子が悪くなり、タオルケットを強くつかみ、前よりも目を固くつぶり首を左右に振り始めた。
これはもう、ちゃんと起こさなければ。
そう思って遥の肩をさらに強く掴もうとした、その時。
「いやぁぁぁぁぁぁっ」
「!!!」
遥が、がばりと飛び起きた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
遥は、荒々しく息をしながら、俯いている。
「・・・遥、大丈夫か?」
「!!」
そう恐る恐る俺が声をかけると、遥はビクリと肩を揺らし、こちらを見た。
「兄さん・・・ぐすっ」
すると、遥はみるみる目から涙を溢し、泣き出した。
俺は、慌てて遥を抱き締める。
「どうした、遥。怖い夢でも見たのか?」
「・・・ゆ、夢じゃないの。本当だったことなの。」
遥は、俺の背中に腕を回してしがみつきながら、そんなことを言った。
「・・・そうか。でも、それは今じゃないから大丈夫だ。」
俺は遥の言っている意味がわからなかったが、必死に安心させようと背中を擦りながらそう言った。
「ねぇ、兄さん。私、ちゃんとここにいるよね?生きてるよね?」
「ああ。兄さんが、遥をこうやってしっかり抱き締めてるだろう。俺が遥を守ってやるから。大丈夫だから、安心しろ。」
「うん・・・ありがとう。兄さん。」




