一の過去編:プリン 5
俺は、叱るような大きな声を出した自分にびっくりしていた。
こんな感情的に妹に声をあげたことなど、今までになかったのだ。
遥も、驚いた顔をして俺の顔を見ている。
俺は、慌てて謝った。
「ごめんな、遥。びっくりしただろう。」
そう言って遥の様子を伺うと、遥は怖がるようなことはなく、いつもと変わらない様子で答えてくれた。
「ううん、私こそごめん。いつもは父さんがいるけど、今日は兄さんとふたりでだもんね。」
怒られた後に普通の小学一年生はこんな落ち着いた反応はしないだろうが、今の俺にはありがたかった。
「火は使わないといけないけど、兄さん料理は始めてだもんね。なら、全部一緒にやっていこうか。」
遥は考えた後にそう言って俺の側にまた戻り、全部一緒に作ることになった。
とは言っても、大体は遥が手本を見せてくれたのを、俺がその通りに一人で作るかたちで進んでいった。
妹から、何かを教わる。
そのことを、俺は兄として嫌だと思っていた。
だから、遥が苦手だと、自分から遠ざけていたのかもしれない。
しかし、今実際に遥から料理を教えてもらうことに対して、俺は嫌がらず素直に聞きいれていた。
それは、料理は勉強とはまた違うということもあったのだが、たぶん一番の理由は、お菓子を作れる遥に対してすごいと思ったことだったんだと思う。
お菓子は、甘くておいしいもの。
人を幸せにするものだと、俺は思っている。
そんな、お菓子を作れる父さんや遥を、俺はすごいと思う。
そして、俺も始めてだが、今お菓子作りをしている。
失敗してはいけないと、プリン作りを一生懸命頑張った。
そうして、なんとか無事にプリンを作り終え、冷やすために冷蔵庫へとすべて入れ終えたのだった。