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プディングと私


お昼に卵料理が出た。

おやつはプディングだった。


これって誰の卵かな…


そう考える私の頭のなかには、答えがひとつ浮かんでるわけですが…

しかも、私の推理はおそらく間違っていない。


そう、あの大きな軍鶏みたいな…コケッコー?の卵だと思う。


こってりした濃厚な卵味のプディングの横には、板状のカラメルが大きめに割られて添えられている。

ほろ苦いそのカラメルをコツコツと割ってカリリと噛み締めるとじわりと甘くて苦い。

その苦さを消すように濃厚な固めのプディングを切るように掬って食べたら…



ああ…幸せ…



カラメルがソースになってるのもいいけど…竜人の料理は歯応えを残したものが多いらしいから、これは竜人好みの味なのかもしれない。


「ツィー様は卵料理がお好きなんですね」


マリイミリアさんはお茶を私に差し出してくれた。

ちょっと濃いめの紅茶みたいな味のお茶。色は…スカイブルーだったけど。マロウ入りハーブティーのつもりでのんだら、びっくりしすぎて吹き出しそうになるくらいの味の濃さ。


「はい。凄く好きです」


スプーンで掬うと震える黄色いソナタ…ってわけにはいかない固さなのがちょっと残念だけれど。

贅沢は言わない。

これはこれで美味しいからね。もぐもぐ。


「竜人も卵をとても好みますわ、だからこの国は卵料理がとても豊富なんですの」


マリイミリアさんはうふふって微笑みながら…

このくらいのって、両手で大きな円を空に描いた。


「大きな卵を生む魔獣が北の雪山にいるんですの、その卵を採ってきて、雄竜人が雌竜人に捧げることもありますわ」

「そんなに大きいと、食べるの大変じゃないですか?」

「竜体にとってはちいさなものですわ。殻ごといただけますし」


頭のなかに蛇が鳥の巣を襲って卵を食べている映像が浮かんだ。ザ、まるのみ。

蛇じゃないんだけど、竜なんだけど。

殻ごといくって聞いちゃったからね…


「ノヴァイハ様に頼んだなら、すぐにでも持ってきてくださいますわ」


そ、そういうプレゼントはいらないかな…

竜体になれない私には大きな卵である必要性が全然ないわけで…

大きな卵貰っても食べきれないし殻を何かにつかうくらい?

あ、あの赤と青の小ネズミみたいに大きなパンケーキ作って皆で食べるのは憧れるかも…で、そのあと殻を車に…はしなくていいかな。うん。


「ノヴァイハ様は残念がっていますわ、ツィー様が何も欲しがらないからと。ちいさなわがままをいうくらいが雄竜人は喜びますわ。時にはちょっと無理をするくらいの我が儘や、そのあたりで簡単に手にはいるようなものを織り混ぜて緩急をつけて…」


そうして、マリイミリアさんがヒューフブェナウさんにしたちいさな我が儘を色々教えてくれた。


北の海の底に住んでいる、虹色に光る水棲生物を生きたまま連れて帰ってほしい。とか、

西の川に住む貝が抱えるという白い珠に、時々混じる黒い珠だけを連ねて首飾りにしてほしいとか、

南の山に二百年に一度歌うという鳥の、鳴き声を真似してほしいとか、

溶岩のなかでも溶けない、金色の宝石を見つけてほしいとか。



…えーと…

どの辺りが優しくて、どの辺りが大変なのか私には判らないんですが…

むしろどれも無理なんじゃ…


「ちょっと難しい我が儘をいうとヒューフブェナウは数年帰ってこなかったりもいたしますの。そんなときは時々お弁当を持っていってあげるととても喜びますわ」



やっぱり!!

ヒューフブェナウさーん!!



何年って…ちょっとした我が儘を叶えてもらうっていうレベルなのか。


人とはやっぱり感覚が違うんだろうけど…。

私だったら、そんな頑張ってお願いを叶えてくれなくていいから、そばにいてほしいって思うんだけど…


「竜人の雄は哀れな生き物ですわ、愛にすがって生きていかなければ、すぐに己を見失うような脆弱な精神と、雌とは比較にならないほどの強靭な肉体をもちますわ。時折無理難題を押し付けてその有り余る力を削がなくてはちょっとした事故に繋がりますの」


ちょっとした事故…それが何かを知りたいような知りたくないような。


「時折思いますの、世界はなぜ、竜人を産んだのだろうと。

他の種族とは比較できぬほどの力と、寿命を持たせながら…酷く不安定な精神を与えて。

まるで何かを壊すために作られたような…いえ、言い過ぎましたわ、これは私の戯れ言ですわ」



マリイミリアさんは何かをふりきるように首をふった。

いつものにこやかな笑顔にはめずらしく陰りがあった。マリイミリアさんは気分を切り替えるように、話している間に冷えてしまったお茶を温かいものに変えてくれた。



私はお皿に乗った食べかけのプディングをじっと見た。



私はこの世界のことも、他の世界のことも判らない。


プディングに空いた穴みたいに。

いつのまにかそこにぽっかりと空いた穴。

本当は何がそこにあったのかもわからない。



大切なことも大切じゃないことも。



知らないうちに失われていく。

私の我が儘をなんでも叶えてくれるなら…



私の失ったものをかき集めて。



そういったら…どうなるのかな?




パクリとスプーンですくったプディングをぱくりと食べる。


口のなかで溶け残ったカラメルが、酷く苦く感じた。




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