鶏と私
それは鳥っていうよりは鶏だった。
しかも軍鶏。
脚が長くて鶏冠も立派に赤くて色も軍鶏に似ていた。
ただ、鶏と違うところは首から胸にかけて羽毛ではなく、日を反射するとマラカイトグリーンに輝く鱗が生えているっていう所。
それに、長い尾羽の代わりに長いトカゲのような尻尾。
爬虫類と鳥の間みたいな不思議な生き物は手綱をつけられ、モステトリス君に引かれていた。
そして、大きさはモステトリス君より大きい。
私は庭園の門扉をあけてモステトリス君の横に立った。
鶏さん側はつつかれたら嫌なのでちょっと避けてみた。
だって嘴が鋭すぎる。
「 凄い立派な鳥さんですね?」
そう、いうとモステトリス君はぱっと嬉しそうな笑顔になって
「そうなんです!この子の良さに気づくなんて、流石ノヴァイハ様の番の方ですね!」
って言ってしきりに頷いている。
どうやら普段はこの子が褒められることはあまりないらしい。
「こいつは凄く脚が速いんですよ、それに器量良しで性格も温厚なんです」
そういって自慢げに鶏さんの首周りの鱗をくすぐるように撫でた。
フワフワの巻き毛の天使系美少年が軍鶏モドキを愛でるというカオスぷりが凄い。
「ほら、お前も挨拶しろよ」
ペチペチって首を叩いたら軍鶏モドキは、カッって見開いた目でこっちをみて一声。
「ウッ…ウーコッケーーーッ!!!」
って高らかに鳴いた。
「鳥骨鶏!?」
軍鶏なのに鳥骨鶏!?
ちょっと鳴き声のイメージが違うんですけど!
「ええ、そうです、キドモーシャウーコッケの名前は鳴き声からつけられたんですよ」
モステトリス君はそんな蘊蓄を披露してくれた。
あ、うん、そうなんだ…ってしか言えない微妙な豆知識。
「触ってみますか?」
勧められたので、とりあえずさっきからペチペチされてる首もとの鱗に触れる。
しっとりとした触りごこちの鱗はノヴァイハの鱗とは違う暖かさ。
「わぁ…凄い…」
目を細めて気持ち良さそうにする様子はちょっと可愛い…
…様な気もする。
「キドモーシャウーコッケは弱点となる首を鱗で覆うことで、他の鳥達よりも強くなったんですよ。長い尾は攻撃力も高くて、外敵から身を守る術をもった珍しいコッケー属なんですよ」
そう説明してくれるモステトリス君は博識だった。
っていうか多分マニアなんだろうな。
「コッケー属の中では頭もいい方なのでこんな風に飼い慣らして騎獣にして乗ったり荷車を引かせたりします」
うっとりと軍鶏モドキをモステトリス君は見上げた。
モステトリス君はこの子をとても可愛がってるんだなって思ってしまうような優しい眼差し。
「それに、卵も肉も癖がなく美味しくて、羽根も鱗も美しいのでとても重宝されるんですよ」
そういってモステトリス君はキラキラの巻き毛をシャランと揺らして
にっこり。
って笑った。
最後の最後で今日一番の微笑み。
あぁ、うん、そうか。
可愛がってるんだね。
非常食として。
私はちょっと遠い目になった。