腐肉と竜
グロ注意!!
そこに案内される前から酷い腐敗臭が辺りには充満していた。
ヒューフブェナウは顔をしかめながら部下に案内されるがままについていく。
臭いの発生原、そこは森の開けた場所、いや、開かれたが正しいだろう。
あたり一面薙ぎ倒された木々と、その中で残された数本の大木だったもの。
枝葉を払われ、大地に刺さったトゲよように生えた大木。
そのトゲに串刺しされた大量の生き物だった者達の残骸。
森の奥に作られた広い空間の中では、異臭を放つ腐肉の柱が数本立っていた。
近づくと動物や魔獣が最期の時の苦悶の表情のまま、串刺しにされていた。
下に刺さったものは腐敗を始め、一番上に重なっているものはまだ新しい。
「これは壮観だな」
ヒューフブェナウは呆れたように呟いた。
最近あちこちで魔獣の死骸が放置されているのが問題視され、調査にあたっていた矢先にヒューフブェナウの元に届いた報告。そして、案内されて来た森に作られた奇っ怪な場所。
行為そのものを見れば小型の飛竜が時折行う早贄に近い行為。
だが、獲物を食べている形跡はない。
鳥類の早贄にしては獲物の大きさが大きすぎる。
大型の魔獣を刺せるとなると相当な戦闘力と飛翔力が必要だ。大型の亜竜の行動か…しかし、早贄とするならば季節が合わないそれに…
「殺りすぎだ」
周辺の生き物を狩り尽くす勢いで串刺しになった死体の山。
薙ぎ倒された木々の中に残る数本の木は枝を払われた状態で獲物が来るのを待っている。
偶然ではなく、串刺すことを前提に払われた枝。
尖らせた先端。
隣り合うでは、大きな魔獣同士が触れぬよう絶妙にずらされた配置。
そして、限度いっぱいまで、串打たれた肉塊達。
「こいつを作ったヤツは明らかに頭がおかしくなっているな」
おそらくこれをしたのは竜人で間違いないだろう。
求愛時に保存している餌の量を重視する竜種か、空を舞う竜種か、それらに求愛する竜か。
本来のあるべき姿からかけ離れてはいるけれど、これは哀れな竜の求愛行為だ。
受け取る相手の居ない貢物。
それを集めることの止められぬ憐れな竜
「ここを餌場とするならそう遠くない場所に巣を構えている可能性が高い。調査を続けろ」
部下にそう指示してヒューフブェナウは周辺の様子を細かく調べる。
地面には串刺しにされた獣達の抜け落ちた羽根や鱗や毛、腐り落ちた肉片が積もり痕跡を探すのも一苦労だ。
今、王都にいる番の居ない竜人の顔を思い浮かべる。
メロデイアとレーゲンユナフ以外は比較的歳若いものが多い。
この作業の荒さはまだ若い竜人か…
しかし獲物の種類の豊富さや狩りの精度は非常に高い。
急所となる場所を的確に狙ったその手腕、その上、生息地域が非常に限られたものや、稀少な魔獣も多く含まれている。
この手際を見るならば、おそらく非常に実力のある竜人。
が、その後の処理が荒い。
レーゲンユナフは朽ちた肉塊の連なる柱のような木を見上げる。
求愛行動をする竜人は執拗にその出来に拘ることが多いというのに…
レーゲンユナフは奇妙な引っ掛かりを感じ首を捻る。
これを餌とするにはいささか餌が古すぎる。これでは番に食べさせることが出来ない。
愛を囁くにもここは腐敗臭がきつすぎる。
その判断が出来ないほどにおかしくなっているのか、そもそもまったく違う目的でなされているのか…
レーゲンユナフには見当もつかなかった。
ただ、これをしたのが馴染みの竜人達でなければいい、そう心の底から思った。
この竜人はもう…頭の芯までおかしくなっているから。