飴玉と私
部屋に戻るために長い廊下を並んでゆっくりと歩いているノヴァイハと抱えられた私。
この年になってお姫様抱っこされることに馴れつつあるこの現実がちょっと痛い。馴れていいものなのだろうか…?微妙な気がする。
長椅子から立ち上がった瞬間ふらついた私をノヴァイハは軽々と抱き上げてくれたのだ。
そしてそのまま部屋に向かう長い廊下を進んでいく今に至る。
ちょっと落ち着かないものの、ここから見える庭の景色はとても綺麗だった。色とりどりの花と緑が騒がしくないように絶妙な位置で配置された華やかで調和のとれた見事な庭。
けれどノヴァイハはそれを見ることもなく黙々と歩いている。しかも、元気がないように見える。私はなんとなく気まずい沈んだ空気を浮上させようと必死に話題を考えた。
そうだ、あの臭いと凄い味はなんだったのか聞かないと!!
「ノ…っ!」
声を出そうとしたら口の中の飴が落ちそうなって慌てて口を押さえる。
イリイさんからもらった飴は柑橘系の味がとても美味しい飴。美味しいけれどとても大きい。普通の飴より大きないわゆる駄菓子屋です売ってる大玉サイズよりちょっと大きいくらい。
ゴロンゴロンしてとても嘗めにくいうえに噛んで割るにも固すぎる。
「ツムギ?」
ノヴァイハが不思議そうな顔でこちらを見下ろしてきた。
光に当たったピンクの髪の毛が白に近くなってとてもキラキラしている。
「ツムギ、気持ち悪いのか?」
「あみぇが落ひほうになっひぇ」
「うん?」
飴のせいで笑えるくらい話せてない!!
ノヴァイハの薄荷色の瞳が怪訝そうにすがめられた。
「ツムギ、とりあえずその飴は噛んでしまいなさい。」
「かめまひぇん」
とりあえずコロコロと必死に嘗める、少し小さくなれば話やすくなるだろう。コロコロ嘗めるというかゴロゴロだ。口の中に夢中になりすぎてノヴァイハの腕の中でよろりとバランスをくずしそうになる。
「ツムギ、噛まないの?」
ノヴァイハが私を落とすことはなかった、っていうか私がよろけたことにも気づいてないんじゃないかってくらい動じてない。
縦に裂けた瞳孔やこういう力が強いところは竜なのかな?そう思いつつ、口の中で噛もうとチャレンジするがつるつる滑ってうまくいかない。この飴は私の知ってる飴より硬い。
大きさといい硬さといい…こんなところで異世界感を出さなくてもいいのに。
「ツムギ、その飴は不味い?」
その言葉にぶんぶんと頭をふる。いえいえ、とんでもない。ちゃんと酸味もあって果物の味のするとても美味しい飴です。
とりあえず口を押さえながら
「ひょっと、おおきふぎれふ」
「うん?飴が大きい?」
そうそう、まさか通じるとは思わなかった!!さすがノーイ!!
「あひょ、かひゃいれふ」
「ああ、硬いのか」
うんうん。そうそう。
「あごほふかれまひは」
「あごも疲れた…ね」
私の暗号のような言葉を解読してふふっとノヴァイハは笑った。私もつられて笑った。さっきまでの重い空気はそこにはなかった。
「ツムギ、ちょっと飴をみせて?」
そう言われお行儀が悪いなって思いながら口をあけると、ノヴァイハの薄荷色に茶色の筋が散るチョコミントみたいな光彩が近づいた。
あ…
っと思う間もなく柔らかなものが唇に触れた。それは、つるりと口の中の飴を拐ったかと思うと口腔内を去り、ガリン!という音の後に、歪な飴の塊がひとつ口腔内に転がった。
流石にこの行動も二度目ともなると馴れてくる。
求愛給餌といいつつもどちらかというと扱いは雛的な気がする。
離されたノヴァイハの薄い唇をぼんやり見ていたらゴリボリと飴が噛み砕かれていった。
「うん、甘いくて美味しいね。」
あんなに固かったのに。そう思いながら…ノヴァイハを見上げる。
自分で、やっておきながら、ふふっと照れたように笑ってほほを染める私の番は女子力高いなぁってぼんやり思った。
雄なんだけどね。