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眠る番と竜

「確かどっかにあったはず…」


料理番のレーゲンユナフは部屋の本棚の大量の料理本を漁る。

ゴソゴソとあちこちを調べるが…探しているものを記述した資料が皆目みあたらない。


人族は弱いというのに常に国同士で争いをする。そのため識字率が低く、書物が他種族と比べて格段に少ない。その上、生死に直結しない料理の本などは、平和な治世が長く続いた時にしか出版されない。そのうえどれほど栄えた国だとしても戦争が多く消失することも多い。

そのためここにある人族の料理についての資料は殆どがレーゲンユナフが己の足で集めたものとなる。

「やべぇな、どっかにあったんだよな」

積んでいた本をひょいと持ち上げたその間からバサリと古ぼけたノートが落ちてきた。

「おっ!これだこれ」

これは数百年前に訪れた獣人国に住む人族と話したときのメモだ。

獣人族の王城の兵舎食堂で、次々と面白い調理法を発案している娘がいると聞いて会いにいったのだ。

たしか…その時の会話を紙にかいたのだ。

とても興味深いものが多く、調理法は他に纏めたのだが…ちょっとした雑談内容も面白かったので念のため保存しておいたのだった。


そういえばあの国はイリイの出身国だったか?

ぱらりとめくると手書きの調理法。

その横に書かれた走り書きを重点的に読んでいく。


娘の生国においてはゲヌルドの肉は数週間寝かせて熟成させる。

これじゃないな、縁起物として長く巻いたものを吉方をむいて食べる? 違うな。

鬼の一族をよけるために小魚の目を…


…どうでもいい話も多い。

ぱらりと捲ると探していた記述が。


ーーーーーーー

<肉を柔らかくし、臭みをとる方法>


・青ヤイパの絞り汁を加え揉み混む。

・ルコルアの根のすりおろしを加える。

・塩とスパイスを加え一晩寝かせる。

・大量の塩で水分を抜き、その後塩抜きをする。



ルコルアの根について

ルコルアの根の酒精は人族には強く、大量に摂取すると(生で2本程度)昏睡や急性中毒を起こす。

恐らく人により差があり、弱いものは数口で急性中毒を起こす。

急性中毒患者には解毒魔法をかけ、その後も昏睡が続くものには気付け薬を使用。


気付け薬はトゥガラの外皮とジンジャの皮と実を煮出し、オラジュの汁と皮をまとめてすりおろしたものを濾して使う。


獣人のルコルアの根の大量摂取者にも同様の症状がみられた。気付け薬も有効。

ーーーーーーー


探していた記述を見つけた。

ルコルアの根の急性中毒。


「気付け薬を急いで作るか」


材料を読むだけでわかるが…この気付け薬は相当不味い物体になるはず。


口直しの甘味も必須だな。


レーゲンユナフは自室から急いで厨房に向かった。







「なあ、ノヴァイハの番はなぜ起きない?」


部屋の端でノヴァイハの暴力的な竜気から番のウサギ獣人のイリイを守っていたリーデオルグテマはごく素朴な疑問を口にする。

「普通は解毒したら直ぐに目をさますだろう?」

その言葉にミルエディオがふむ、と顎をさすりながら答える。

「そうですね…今までのことを鑑みると…ノヴァイハ様の番の方は魔術や薬効のあるものに対しての感受性が非常に高いようですね。恐らく今回のこともそのあたりが原因でしょう」

答えた医術師団長のミルエディオの横で、未だにノヴァイハへの怯えが消えないルエルハリオも慌ててその声に答える。

「解毒の魔術もとても早く効いていましたしそういった体質なんだと思います」

それを聞きメロデイアも会話に加わってきた。

「それじゃあ、お嬢ちゃんはいつ目をさますか解らない?」

「そうですね…まずはルコルアと人族について調べる必要がありそうです。イリイさん、獣人はルコルアをよく食べるんですか?」

「はいっ!食べます。でも昔、1度に10本以上食べたらダメだって聞いたことがあります。とはいえルコルアがそんなに生えることはないので…すいません…私がルコルアを番の方にたべさせたばかりにこんなことに…」

ミルエディオはイリイの言葉に首をふった。

「いえ、番の方の体質を考えれば遅かれ早かれこのようなことは起きていたでしょうし、発生したのが対処できる王城内でむしろ良かったです。貴方が気にやむことではありませ」


リーデオルグテマはしょんぼりと耳をへたれさせるイリイの頭を撫でた。


その時、長椅子でツムギを抱いていたノヴァイハが焦ったような声を出して番を呼んだ。


「…ツムギ?ツムギ!?」

その声に緊張が走る。

ミルエディオは慌ててツムギの側にかけよる。

「ミルエディオ!ツムギの脈がおかしい」


ミルエディオがつむぎの脈を計ると通常、竜人より早く刻をきざむそれが非常に遅くなっていた。呼吸も深すぎ、ノヴァイハの必死の呼び掛けに答える様子もない。


非常に重苦しい空気が部屋に満ちる。

その時、部屋の扉がバンッ!と開かれ…



凄まじい匂いが風にのって飛び込んできた。


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