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幼竜の恐れ

医術師団が常駐している医務室に緊急時に発動する魔道具の鈴の音が鳴り響いた。部屋の空気に緊張感が走る。滅多にならないその魔道具の発信先は西の離宮から。

リーデオルグテマ様からノヴァイハ様の番の方の様子がおかしいと。


毒か!?と医務室にざわめきが走る。


しかし話を聞いていくと体に合わぬものを食べたのではないか。ということだった。

その時、医務室にいたのは団長のミルエディオ様と先輩達数人と私。

「ルエルハリオ、解毒は貴方が得意でしたね。いきますよ。他の者は医務室をお願いしますね」


団長のミルエディオ様は竜人にしては珍しく物腰も口調も柔らかい。


竜人は怪我もすぐ治るし病気にもほとんどなら無い。なので医務室は常に閑散としているのだけれど、ノヴァイハ様の番の方がいらしてからはとても忙しい。

瀕死だった番の方のために人族の治療法を調べたり、マリイミリアさんに殴られたノヴァイハ様が運ばれてきたり、マリイミリア様に丸焼けにされたヒューフブェナウ様がいらしたり、医務室は暇な方がいいとは解っていても医務室に配属されて数十年、一度も無かった賑わいに不謹慎ながら少しウキウキしてしまう。


ああ、でもうまく解毒を出来るか心配になってきた。


時折狂気に触れるようになり地下に幽閉されたノヴァイハ様。

その悲痛な鳴き声だけは孵った時から聞き続けてきた。

悲しくて悲しくて聞いてる私まで涙が溢れるようなそんな鳴き声。


そして世界を怨む慟哭と殺気が放たれた時には…恐ろしくて眠れぬ夜を過ごした。最強と言われているその竜が狂った時に世界が終わるのだと本能が知っていたから。


そんなノヴァイハ様が番をみつけられて街は活気に溢れた。

実際は番の方が瀕死の重体で、そのあとも呪の影響で目を醒まさず…そのまま儚くなられる危険もあったのだけれど。

その最中、医務室でミルエディオ様と話し合っていたノヴァイハ様をみかけてとても驚いた。

はじめてお見かけしたノヴァイハ様は、雄竜人らしからぬすらりとした方だった。

最強だと言われるのだからさぞ逞しく、恐ろしい雄竜なのだろうと想像していたのだけれど。筋骨隆々とした雄竜人が多い中、メロデイア様を細身だと思っていたけれど…ノヴァイハ様はもっと細かった。

長い間番に出会えなかったせいで外見的な性差の影響が無かったのだろう。

ノヴァイハ様と比べるとメロデイア様は雌竜的な振る舞いや話し方をしているがやはり雄竜なのだと思ってしまう。

番と出会う前に死別したと言われているメロデイア様。

おそらく…亡くなった番の方は雌の性を選んだのだろう。メロデイア様は雄の特徴が現れたのに奇妙にちぐはぐなのは…と勝手に憶測している。

遠く離れていても影響されるほどに番との魂の結び付きは強いから。


まるで現実逃避するかのようにとりとめの無いことを考えそうになり慌てて頭を切り替える。


解毒をするにもその毒が何かと解っていないと解毒の魔術の効力がさがってしまう。ちらりとミルエディオ様の横顔を見上げる

「大丈夫ですよ、獣人のイリイ様の作られた野菜ということでしたから…人属にとって毒性が強すぎるというものでは無いでしょう。」


結界を解かれた西の離宮に入り迷いなく進むミルエディオ様の後についていく。

ノックの後に部屋のドアをあけるとふわりといい香りがした。

頭の中まで痺れるようなその香り。

頭を下げながら思わずに香りのもとを探してしまうが…みつからない。


なんだろう?


この胸のざわめきは…


「…むふ、なるほど。ありがとうございます」

ミルエディオ様の声にはっと我に返ると既に診察をおえていた。

なんてことだ。

全く聞いていなかった。

この匂い、いったいなんなのだろう…


「酒精にあてられたのでしょう。念のため腹の中にあるルコルアと血中の酒精を無毒化させましょう。ルエルハリオ」

「はっ!はいっ!」

ミルエディオ様が振り返ってこちらを見る。解毒対象が酒精ならば大丈夫。こくんと頷きで返した。

「解毒は私よりルエルハリオが得意なので」

「ほう、ミルエディオよりとは…幼い身でありながら素晴らしいな。ルエルハリオよろしく頼む」

大切そうに胸に抱えた番の方。

壊れやすい宝物をそっと差し出すようなその仕草。

一時も番からはなれることのない視線。

大切なのだと、みるもの全てに伝わるような


なのに私の胸の奥はひやりとした。


失敗は…しない。


番の方に何かあったら…


この方はどうなるのだろう?



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