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涙を降らす竜

城の壁をぶち抜いて飛び立った弟を見送りながら今世帝は大きく息を吐いた。無理矢理引きちぎられた呪は術者に還る。弟と共に複雑に組んだ縛呪。その乱暴過ぎる開呪の結果、急激にかかった負荷に体が耐えきれずにバランスを崩し床に膝をついた。


「陛下!」

ガチャガチャと装備を鳴らしながら扉の向こうで控えさせていた宰相と兵達が入ってきた。


「ヌェノサス!私の代わりにあいつを追え、蘇生の出来る治癒師も派遣しろ。何としてでも番を助けろ。


…番の死ぬときは世界が終わるときだ」


「御意」


千年の孤独の果てに出会えた番を喪えば弟は容易く世界を終わらせるだろう。


この国を守るために、弟の番の命が失われることは何としてでも防がなくてはならない。

しかし…弟のあの動揺を見る限り事態はそう甘くもないのだろう。












空を飛びながらノヴァイハは羽ばたく度に、近づく度に強くなる番の血の匂いに心臓がギリギリと締め付けられるのを感じた。

番が竜人以外ならばこの血の量はそのまま死を意味するものだ。

やっと巡り会えるというのに運命はどこまでも残酷だ。ぶるり、と体を震わせると先ほど引き裂いた傷から血が溢れた。

赤まだらになってはいるが、久しぶりの昼間の空の下で白い鱗が光を反射して水面のように柔らかな光を振りまいていく。


始祖の泉が見えた。

ちいさな噴水は赤く染まり、その側に横たえられた番ともう一人。

番は黒い髪をしていた。水と血にぬれて重い艶をはなち、番のその周りは赤黒くに染まっていた。

赤まだらになっていない部分の肌は抜けるように白く、生まれたての幼竜の嘴の先ようにほんのりと僅かに黄色がかっていた。


まだ幼い子どもともいえる年齢。


閉じた瞳はまつげまで黒く、もし開いたならばその瞳は何色なのだろうかと考えるだけで心が締め付けられる。

この閉じられた瞼の裏にあるその瞳の色は…



番のすぐ側に舞い降りる。

大きな竜の体を出来るだけそうっと、番の傷に響かぬように。

すぐ側に顔をよせる。


何も聞こえない。


呼吸音も鼓動も


知ることが出来なかった。


この子の瞳の色を。


ばしゃばしゃと番の周りに水が落ちた。

頬にも髪にも体にもばしゃばしゃと。


どんな声をしていたのだろう?

どんな顔で笑ったのだろう?

なんという名だったのだろう?

私の名はどんな風に呼んでくれたのだろう?


もう全て知ることが出来ないなんて


会ったばかりなのにもうさよならなんて



「…ァイハ様、ノヴァイハ様っ!!」


足元で誰かが叫んでいる。

うるさい、静かに寝ているこの子が起きてしまうじゃないか。

こんなひどい目にあったんだ、静かに眠らせてあげないと可哀想じゃないか。



最期に側にいられなかった。

君を一人で逝かせてしまった。


ああ、そうだ、さよならなんて早すぎる。

君と離れるなんて出来るわけがない。



君を埋めるなんて…



あぐりと大きな口をあけた。


べろりと嘗めると血と涙の味がした。


そろりと歯にひっかけたぐにゃりと柔らか過ぎる体を噛まぬように…



ごくりと一息で呑み込んだ。





ーーーーぐぇっ!!!



呑み込むために閉じようとした口に何かが挟まった。


死角になってよく見ることはできなかったが、それは頭に牙が半分刺さった近衛兵隊長だった。



「ノヴァイハ様っ!おやめください!生きておられます!番の方はまだ生きておられます!!!」




シリアスだと思われていそうですが…多分ジャンルはコメディ( ´∀`)

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