魚な竜と私
本を読み終わってしばらくしてノヴァイハが部屋に迎えに来た。
ノックと共にドアが開けられ黒地に金糸の縁取りのある服を着たノヴァイハが立っていた。
ずっとゆったりした白い服を着た姿ばかりを見ていたのでちょっとした違和感がある。ノヴァイハの綺麗過ぎる顔立ちのせいか、黒い服は悪者っぽく見える気もする 。
「ノーイ、いつもと違いますね」
「今日は会議に出させられたからね…」
少しげんなりとした顔で話すノヴァイハがなんだか少しかわいく見えた。
そして、ちゃんと仕事をしていることにほっとする。
仕事大事だよね。私もはやく何かすること見つけないと。
近づいてノヴァイハを見上げながら
「黒い服も似合いますね」
そう言うと「ありがとう。」と少し頬を染めて言われた。
今まで会った竜人の方達…といっても数人しか交流がないのだけれど、ノヴァイハはその中でも細身な方な気がする。メロデイアさんはちょっと言葉使いがアレだけれど、体格はしっかりしているし、先ほど会った料理長のレーゲンユナフさんはまさに筋骨隆々とした体型だった。
ノヴァイハはカッコいいより綺麗な方。
そんなノヴァイハに連れられていった場所は、先ほど散策した庭園を見下ろせるテラスだった。
「獣人のイリイに会ったと聞いたよ、番のリーデオルグ…」
バーン!!!と凄い勢いでドアが開きノヴァイハの言葉の続きは聞けなかった。
びっくりして振り返ったその先には、緑の髪の迫力美人が居た。
その後ろからぴょこん、とウサギの耳…ではなく、イリイさんが顔を出した。
緑の髪の美人さんは、見事な胸の谷間が丸見えのほぼ水着に近いデザインの服を着ていた。
素材は固そうな小さな板を鱗状に並べたもので…西洋の鎧に似ている。
胸もお腹も足も凄く出てるのに不思議といやらしさがないのは…
おそらく、恥じらいうものは無い。といわんばかりの仁王立ちのせいな気がする。
「待たせたな、ふむ、君がノヴァイハの番かイリイに聞いてはいたが…まだずいぶんと子どもだな。私はリーデオルグテマ、イリイの番だ。ノヴァイハに無体を強いられたら遠慮なく私に言うのだよ」
そう言って私の頭を撫でた。
また子供扱い…イリイさんも見た目はそこまで変わらないと思うのだけど。
イリイさんの番のリーデオルグテマさんは頼れるお姉さまって感じの竜人だった。
ただ…ちょっと気になる点が。
「えーっと、イリイさんは女性ですよね?リーデオルグテマさんも?」
ノヴァイハに思わず確認をする。
世の中は色々あるから、同性カップルも珍しくなくなっていたけれど…
この世界でもそうなのかしら?
「うん?ああ、竜人の番が同性なのは珍しくないんだ。竜人は性別が他の種族より曖昧でね、生まれた時は雄に近く、育つにつれ約半数の個体が雌になっていくんだ。ただ、回りに雄が少ない環境だと雄が雌になることもあるし、500歳くらいまで意思を強く持てば自分で選ぶこともできるんだ。一度自分で選んでしまったらもう違う性には変えられないけれど」
竜人って性転換するんだ…
みつけられちゃうニーモーなお魚が確かそんな、性質だったような…
魚類か…
竜人は魚類に近いのか。
「番に早く出会うと雄は雄として、雌は雌としての特徴的が強く出るけれど…リーデオルグテマのように長く番に出会えなかった竜人は、己で選んだ性と番の性が合わないことが時折あるんだ。」
ノヴァイハはなおも、説明してくれる。
ふむふむ、なるほど。
あれ?
それならメロデイアさんがおネエ系なのはなぜなんだろう?
性別を選べるならおネエになることもないしはずだし…
「わ、私はリーデオルグテマが女の子で良かったのです」
うん、緑のお姉さんの後ろからぴょこんと、顔を出して言うイリイさんはとてもかわいかった。
可愛すぎるイリイさんに意識が向かっていた私は、その時ノヴァイハがしていた微妙な表情は見れなかった。
もし、見ていたとしても…
その表情の理由を私は解ることが出来なかっただろうけれど。