ハロウィン小話
本当は10月31日にこの話をアップする予定がうっかり睡魔に負けてしまい…
1日ずれてしまいました。
消すのもおしいので…
遅刻なハロウィン小話です。
時間軸は本編のちょっと先の日常。
この話はノヴァイハ視点もあるのですがR-18なのでお月さまに…
イリイさんの菜園の端でごろりと転がるオレンジ色の野菜をみつけた。
…とてもカボチャに似ている。
私は菜園で雑草を抜きつつ食べているイリイさんに、勢い込んで聞いた。
「イリイさん!これ!!この野菜、何ていうんですか?」
「うん?これはカボイの実、甘くてほくほくしておいしいの。はーい。」
イリイさんはその細腕からは想像出来ないような行動を取った。
ひと抱えあるカボチャ…ではなくカボイを持ち上げてから私の方に投げた。
キャッチ!!…はせずに避けました。
ドスッ!
「あれ?いらなかった?」
不思議そうに首を傾げるイリイさん。
カボチャは投げるものなのか!?
いや、違うよね!?
ドスッて土が凹んでますよ!?
とにかく私はありがたくそのカボイを頂くことにした。
抱えるのは無理だったので投げずに転がして離宮に戻る。
重い。
カボイの実は見た目は完全にカボチャ。ならば一度やってみたかったアレを作ろう。ウキウキしながらカボイを転がす。
ゴロン。ゴロン
カボイを転がしながら私は厨房に向かった。
厨房の片隅をレーゲンユナフさんに断って貸してもらい、私はカボチャにナイフで目と鼻と口をくり抜…けなかった。
皮が硬い、固くてナイフが入らない、その上つるつる滑ってしまう。
悪戦苦闘しているとレーゲンユナフさんが笑いながら全てやってくれた。
私の苦労はなんだったんだ!?というくらいに素晴らしい出来映えに手を叩いて喜んでしまった。
カボイの中身は地球のカボチャより赤みが強い。匂いはカボチャほど青臭くない。
幸い構造はカボチャと同じだったのでカボイの中味をスプーンでくりぬいた。
私が必死にその作業をしていたら、切り取った部分だけ使ってカボイ入りのパイを作ってくれた。
レーゲンユナフさん優しい!
そのパイを持ってカボチャ…カボイランタンを抱えて歩く。
中味が少なくなったとはいえ、やはり重い。ふらふらよたよたしながら歩いていると、ひょいと腕の中のカボチャが浮いた。
「ツムギ?何をしてるの?」
カボチャを目で追うとヴァイハがカボチャ持ってくれていた。
「カボチャ…カボイのランタンです。この中に蝋燭を入れて光らせるんです。」
「それは…随分と奇妙…不思議なことをするね」
「私のいた所のお祭りで…なんてお祭りだったかな…」
あ~思い出せない。
こうやって地球のことをわすれていくのか…
合言葉があったような?呪文かな?
ノヴァイハと部屋に向かいながら、うーんと唸って考える。
「昔からこのカボチャランタンをどうしても作ってみたかったのは、覚えているんですが…」
「このカボイに火を灯してを飾るんだね」
その言葉に私が頷くと、ノヴァイハはカボチャランタンを持ち上げた。
カボチャランタンと見つめる合う美形。シュールだ。
すると…目と口と鼻にぼんやりとした火が灯った。
「わあ!ありがとうございます!このカボチャランタンは悪いものがおうちに来ないようにしてくれるんです」
想像通りのカボチャランタンの出来に、大満足な私はそれを部屋の真ん中においてもらった。
「あとは…合言葉を言ってお菓子をもらう…だったような気がするんですが…」
「合言葉?」
「はい、イタズラするからお菓子をちょうだい?ちょっと違う…うーん?お菓子をくれたらイタズラしないよ?」
うーん…なんだか違う。
「!お菓子をくれたらイタズラしていいよ?」
…やっぱりちょっと違う。
横に座るノヴァイハを見ると口許を抑えて顔を赤くして震えてる。
「もー!ノーイ!!そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!!」
「いや、違っ…いや、違わないな、ツムギが可愛くてついね」
キラキラ笑顔で何か隠すように笑われた。
「もー!イタズラしちゃいますよ!!」
ノヴァイハのピンクの髪から覗く少し尖った耳をきゅっと引っ張る。
「うっ!!」
尖った耳は予想より柔らかった。人の耳と同じくらいかな。
そうそう、あのお祭りでもいろんな耳をつけた人がトリックオアトリートって…はっ!思い出した!!
「思い出せました!!お菓子をくれなきゃイタズラするぞ。です!」
耳を引っ張るその手の上からノヴァイハはそっと手を重ねてきた。
「お菓子をあげなかったら、ツムギがどんなイタズラをしてくれるのか…とても興味があるけれど」
ほわりと微笑んでノヴァイハは先ほどレーゲンユナフさんが焼いてくれた、こんがりとした焼き色の美しいカボイパイを私の口に入れてくれた。
サクサクのパイ生地とカボイの優しい甘さがとても美味しい。
風味はカボチャというより栗に近かったけど。
「まずは、美味しいお菓子を君にあげたいかな」
そういって笑うピンク色の竜の口に、私もひとつ美味しいお菓子を入れた。