お散歩と幼竜と私
イリイさんはまだ仕事があるということなので、お昼にまた会いましょうね。と挨拶をし別れた。
西の離宮はぐるりと高い壁に囲まれている。壁を作る石は緑の蔦に覆われその姿は時折、葉と葉の間から覗くくらい。
その縁に沿って作られた道を歩きながら、メロデイアさんはかすかに先端が見えるのが王城だと教えてくれた。
「明日にはノヴァイハの仕事も落ち着くでしょうから、城に遊びに行くといいわ」
「今は忙しいんですか?」
「あと魔獣を2匹くらい討伐したら終わるわよ」
そのメロデイアさんの言葉に驚く。
まじゅう?まじゅうって魔の獣の魔獣?
「…戦ってるんですか?」
「そうね、それがノヴァイハの仕事。空の魔素が凝って墜ちて、魔人や精霊が産まれるの。その中で理性の無いものは魔獣と呼ばれるわ。竜ほど強くはないけれど、この世界の調和を乱すもの。力で言うならば他の竜でも倒せるけれど…残念ながらその見分けはノヴァイハにしか出来ないのよね。」
「見分けはノヴァイハにしかできない?」
「そう、ノヴァイハは世界の調和を乱すものを消すのが仕事。ここ数百年分サボって溜め込んだから、必死にあちこち飛び回ってるわよ」
ニヤリと悪く笑うメロデイアさん。
「怪我とかないんですか?」
それが一番気になる。
「するわけないわよ、お嬢ちゃんの番は世界最強よ、比喩じゃなくね。そうであるように作られたからよ、
この世界に」
不思議な世界だ。
メロデイアさんとノヴァイハは確かにこの世界と繋がってるのだろう。
…私にはわからないけれど。
急に緑の壁が途絶え、そこには大きな鉄柵門があった。
優美なデザインのその扉は馬車用の門なのだそうだ。丁度、柵の向こうに人がいた。白いくるくるの男の子。肩に触れるくらいのその髪の毛はくるくると渦巻き瞳も大きくてとても可愛らしい。けれど、男の子だとわかるきりっとした雰囲気。
「メロデイア!!」
その子がこちらに向かって走ってくる。その顔はとても嬉しそう。メロデイアが大好き!!と顔いっぱいに書いてある。
「メロデイア何をしてるんだ?」
柵の前まで来てメロデイアに話しかける。けれど、少し緊張しているのか顔が強張っている。
さっきはあんなに嬉しそうだったのに…
なんでだろう?
その疑問はすぐに解けた。
「貴方に言う必要はないわね」
今まで聞いたことの無いような冷たい声。思わずメロデイアさんを見上げてしまう。
「ぐっ…ここは西の離宮だ、メロデイアの仕事場所はここではないはずだだろう?」
可愛いらしい見た目に反してこの少年は気が強そうだ。
「私が何処で仕事をしようと、貴方に報告する義務もないはずだわ。さあ、お子さまはお友達と仲良く遊んでらっしゃい」
そう言ってメロデイアはその少年か、目を反らした。
敢えて見ない。
そうと解るその仕草。
この、少年と何かあったんだろうか…
「さあ、お嬢ちゃん行くわよ」
にっこりと私に笑いかけたあと少年には、冷たい視線を向ける。
「貴方もはやくおいきなさい」
そう言うメロデイアさんの指が肩に食い込んで少しいたい。
傷ついた、そんな顔で走り去っていく少年。
けれど、メロデイアさんも同じように傷ついているように見えた。
「いいんですか?」
「ん?なにが?」
その、顔はなにも言うなと書いてあった。
ならば…私は何も言えない。
メロデイアさんのこともあの少年のことも私は何も知らないから。