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緑の竜

ひやりとした空気の漂う回廊を歩く。この長く単調に柱が続く先を抜けると、西の離宮へ続く門へ出る。

その門近くの柱の側に見知った竜人がいるのに気づく。

どうやらノヴァイハが来るのを待っていたらしい。

「先ほどメロデイアから連絡があってな、お前の番と昼を共にすることとなったぞ。」す

そう声をかけリーデオルグテマは、鮮やかな緑の巻き髪を靡かせて近づいてきた。銀色の甲冑がキラリと光る。

「番が寝ているときは今にも死にそうな顔をしていたが…ずいぶん幸せそうな顔じゃないか。」

ニヤリと笑うその笑い顔を久しぶりに見る。記憶にあるここ数百年のリーデオルグテマの顔は常にしかめっ面だった気がする。

「何故お前と昼食を共に?」

「さあな、メロデイアの考えることはわからん。だが、お前の番には興味があるんでな。」

確かにメロデイアの歪んだ思考回路など、この突進してくるゲルヌドゾゾイのように真っ直ぐな思考のリーデオルグテマには、想像もつかないのだろう。


横に並びぶとシャンとかすかに涼やかな音がなる。リーデオルグテマの着ている竜の鱗で作られた甲冑の音だ。

長身なリーデオルグテマの身につける甲冑は奇抜な形をしており、胸や喉はほぼ保護されておらず腹も見えている。

甲冑として何の意味もなさぬその不思議な作りは何をしたいのか全く判らない。

そもそも竜人なのだから人型をとっていても元は鱗、その肌を傷つけられる武器はまずない。そのため当たり前だが甲冑を着る必要はない。しかし、不必要で邪魔でしかないそれを番に「とても似合う!」と言われて以来会うときは大概この甲冑を着ている。その思考回路は非常に雄竜人らしい。


リーデオルグテマは雌だが。


「なんだ、私の乳ばかりみるでない。見るなら番の乳にしろ。」

嫌そうな顔でそう言われたが見当違いも甚だしい。

「わけの判らないことを言うな。お前のゲルヌドゾゾイのような胸に興味などあるものか。」

胸は小ぶりなほうがいい。ささやかな愛らしさがそこにはある。そう、ツムギのようなささやかな胸がいい。

「まったく、ひとの乳をゲルヌドゾゾイ扱いとは相変わらず失礼な奴だ。」

乳だけではなく性格もゲルヌドゾゾイそっくりだろう。

そう喉まででかかったが、やめておく。この雌竜の拳は痛い。竜王種ではないというのに素手が鱗に刺さる。とんでもない怪力の持ち主なのだ。

リーデオルグテマは扉に向かって歩き出した。

長い腰当ての隙間から白い脚が出る。

この服装…ツムギには着て欲しくないな。

ノヴァイハは漠然とそう思った。

リーデオルグテマの番は気にならないのだろうか?

そんなことを考えながらノヴァイハもリーデオルグテマに少し遅れて続く。

「行くぞ!だらだらするな。」

相変わらずこの竜人の言うことは理不尽だ。

「足を止めさせたのはお前だろう。」

「細かいことは気にするな。」

回廊にはリーデオルグテマの抜けるような笑い声が響いた。


今日は騒がしい昼食になりそうだ。

『ゲルヌドゾゾイ』

茶色い皮毛が多いゲルヌドの中でも珍しい白と黒のまだら模様なのがゲルヌドゾゾイである。性格は穏やかなゲルヌド類にしては気が強く、目が合うと必ず突進してくる。しかしそんなゲルヌドゾゾイの出す乳は油脂分が豊富で甘味との相性がよく菓子の材料とされる。

よく肥えたゲルヌドは癖がなく味わい豊かなため、竜の好物であることが多く、好みが把握出来ていない若い番同士の求愛給餌に最適であるが、ゲルヌドゾゾイはそれには当たらない。非常に筋が多く肉には臭みが強い。おそらくゲルヌドゾゾイが多く乳を出すためと思われる。

間違えて狩らないように注意が必要。

また、もし狩る場合は赤いものを身に付けてはいけない。赤いものを見ると凶暴化し突進してくるというゲルヌドの特徴はゲルヌドゾゾイもおなじである。そして、攻撃が突進のみという点も同じである。


ゲルヌドゾゾイの特徴である大きな乳の話は雌竜人にしてはいけない。

卵生である雌竜人は人型では往々にして胸が小ぶりであり、またそれを気にしている場合も多いからである。また、大きな胸の番にも使用してはいけない。

ゲルヌドゾゾイは粗暴で凶暴なことが多い。



<注意!>

ゲルヌドゾゾイを使用して番に愛を囁くことは非常に高度な愛の表現方法となる。 特殊な嗜好の番同士以外は使用することはない。



竜人国世代を越えたベストセラー

『番に愛を囁く100万の手引き』

より抜粋

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